07/22の日記

16:03
第57番 紫式部【土銀】
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月が明るく光る夜。万事屋の壁に掛けられている時計の短針は既に12を過ぎていた。そんな中1つの小さな明かりの傍で愛しそうに月を見つめているのは、万事屋の主人、坂田銀時だ。いつもなら小さな押し入れに身を縮めて寝ている神楽もいるはずだが、この夜はそうではなかった。銀時はもう、何時間も月を見つめている。

ガラガラ、と戸が開く音が静かな万事屋に響く。昼には決して来ない人。毎日、毎日、色んな人を出迎えている戸だけが、こんな夜中に来る客人を知っている。客人は下のスナックに気を使ってか、足音を立てないよう、真っ直ぐと客間に向かってきた。

「万事屋…。」

バツが悪そうに銀時を呼ぶその声は、好敵手として、銀時と顔を合わせる度喧嘩をしている男。土方と銀時は所謂、恋人同士。こんな夜中に土方が万事屋に来たのも、銀時との愛瀬の為。それは互いに予定が合わず、約1ヶ月ぶりだった。予定が合わないと言っても、ドタキャンしていたのは専ら土方の方なのだが。

「……。」

「銀時っ…。」

土方は銀時を後ろから強く抱き締める。銀時はそんな土方の腕に顔をうずめた。顔などお互い見える筈もないのに、今どんな表情をしているか分かった。

「悪かった、銀時。」

土方は銀時を自分と向かい合う様に、動かす。恥ずかしさでか、嬉しさでか、顔が少し赤い銀時に土方は優越感を感じる。銀時をこんな表情にさせるのも、その顔を見るのも自分だけだ、と。

「土方…」

そう呟く銀時に、土方は顔を近づける。愛しい。その、唇に噛み付きたい。ドクドク、と心臓の鼓動が激しくなる。銀時の腰を自分の方へ引き、あと少しで唇が合わさる時、プルルルル、と土方の携帯電話が鳴った。2人の動きが泊まった。土方は苦虫を噛み潰したような顔をして、電話に出た。

『あっ!副長!最近目を付けていた過激攘夷派が動きを見せて…』

「ああ、分かった今行く。」

パチン、と電話を閉じる音が部屋を反響する。土方は何かを言いたそうに銀時を見る。

「分かってるよ。仕事だろ?副長様も大変だな。」

「悪ぃ」

それだけ言うと、土方はついさっき登った階段を、降りて行った。銀時は、土方の姿を見送りながら、分かってんだけどなぁ、と笑う。

「巡りあひて 見もやそれも 分かぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かな」

銀時の言葉は闇夜に消えていく。




巡りあひて 見もやそれも 分かぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かな

(巡り会って見たのは、すぐに雲に隠れてしまった夜中の月のように、逢ったかどうかもはっきりしないうちに慌ただしく帰ってしまわれた貴方よ)


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翼です。
百人一首の紫式部の和歌をテーマに書いてみました。
できたら百人一首シリーズなんかできたらいいなって………

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