届いてほしい願い
□悶えと優しさ
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良守の方もなんとか落ち着いてきたのでここは一人にさせて部屋を出た。きっと一人で考えたいだろう、時音さんのこと。
自分の部屋にたどり着きふす間を開けて中に入った。畳が広がるその部屋にさっきお風呂上がりに入った時にはなかった布団が敷かれていた。私の少ない荷物も一緒に。じっとそのまま固まっていたらふす間が開いた。
「ああ、奈二乃ちゃん。部屋わかったんだね、よかった」
入ってきたのは良守のお父さん、修史さん。手に持っているのはタオルやTシャツ。
「ごめんね、まだこういう服しかないけどまた後で買ってくるから」
『ありがとうございます。でも大丈夫です!私の手持ちの方に洗ったら使える服がありますし、さっき時音さんに服借りましたし……』
多分布団と荷物を運んでくれたのは修史さんなんだろうな。優しい人が多いなこの家は。暖かい。
「時音ちゃんが貸してくれたのかその服。だからさっきうちに来ていたんだね」
ニヤニヤしながら話しますね?修史さん?その様子なら知ってますよね?
でもそれ以上時音さんの話題は出さずにゆっくりしてね、と残して部屋を出ていった。多分良守に気を使ってその話題について言わなかったんだろうな。にしても親子そろって分かりやすいな、言動。
とりあえず目の前に敷かれた布団を見て飛び込まずにいられなくなった衝動を抑えきれずに飛び込んだ。うわーい!布団だ!布団だ!両手を思いっきり伸ばせてしかも安らぎを与えてくれるなんて素晴らしい包容力をお持ちになられてるなんて最高ですね、布団!久しぶりだー!!この感覚!
布団の上に寝転がって安心したせいかまた涙が出てきた。守美子さんはこの暖かい家にもう戻ってこられない。修史さんだってもう好きな人に会えない。繁守さんだって自分の娘に会えない。良守も頭領も利守くんももうお母さんに会えない。そして守美子さんの代わりに私がいる。私が守美子さんと変わることが出来たらいいのに。
そうしていつの間にか寝てしまった。
<続く>