届いてほしい願い
□はじめまして柳森奈二乃です。
1ページ/3ページ
『もう一度……お礼を言いたかったんだ』
繁守さんの部屋を出た後、涙を手で拭って廊下を歩いているときに私はこう話した。良守は私の方を向いて話を聞く体制になった。
『見ず知らずの私を救ってくれた人なんだよ。嬉しかったんだ。でもごめんな、何も知らないのにはしゃいで』
すると頭の上に手が乗る感覚があった。良守がうつむく私の頭を撫でてくれた。
「いいんだ。あれは母さんが決めたことだから。柳森が気に病む必要はねーよ」
でも良かったな、と唐突に言われたので何の事かと首を傾げる。
「取り敢えず住んでいいことになって」
あ、そうか。許可もらえたんだ。ここがこれから私の居場所になる墨村家。
『うん。本当にありがとな、こんな奴を住ませてくれて』
そう言うと良守は少し笑って、
「……取り敢えず風呂入ってこいよ」
って……あ、あ、異臭とかする意味で?一応申し訳程度には洗ってたんだけどなあ、この一年。でもまあ風呂には入りたかったからその提案には賛成だ。何とか自分の体も通常テンションに戻った。これからは周りの空気に馴染まなければいけないな。空気読めない奴はぶち壊すだけだ。
「う、あえと……え、えー……」
『ん?どうした良守』
いきなり言葉を濁し始めた良守。何か不味いことでも言ったのか?でも残念ながら私は良守の発言、風呂入ってこいよのとこしか聞いてないから気にする必要ねーけど。ずっと自分の頭のなかで会議開いてたし。
「その、な。別に柳森が汚いとかいう意味じゃないから気にするな」
ああ!風呂のことね!あーずっと黙ってたから傷ついたとか思ってたんだ。大丈夫大丈夫、もう忘れていたぐらいだから。
『いや、別に気にしてて黙ってた訳じゃないから。ただそーいや風呂入りたかったなーとかそんな呑気なことしか考えてないからな、私の脳みそ。にしても困ったな……』
「どうかしたのか?」
『着替えがないんだよ。洗わないと使えないようなヤツばっかだし、今持っている自前の服……』
「あーそういうことか……」
『下着も限界来てるなー』
隣で下着とか言うな俺一応男なんだけどそこは普通言わない領域だよなぁ!?、とか言ってたけど別に気にしないよ男女なんて。気にするのはあいつだけだ。……ホントあいつのことばかり考えてんなー。元気かな。最後に見たあの表情が忘れられない。笑った顔が見たかったのに。あーいかんいかん、また暗いとこに突っ走ってネガティブまっしぐらになるとこだった。取り敢えず着替えどーするかだけど……
良守、どこ行った?
→