虹色の探求
□Stage.1
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【氷の国《ホワイトダスト》】
もともとあまり交流が少なかったこの国は、今や鎖国状態にあった。
最近では治安の低下に伴い、魔石を狙う輩が後を絶たず…外部から来る者は容赦なく追い払う。そんな国になってしまった。
Level.1【父の依頼】
中でも一番検問が厳しい、城下町《コルディス》───
城に近い少し大きめの住居に、一人の少年が入って行く。
「…ただいま」
彼はこの家の一人息子、ロビス・ドゥードラップ。
まだ17歳と若いが、潜在能力の高さと良き師のお陰で、城の魔道兵士に誘われる程の“ウィザード(魔道士)”であった。
薄紫の、毛先だけ赤い珍しい色の髪についた雪を落とし、入り口のフックにマントをかけてから彼は家の奥へと入っていく。
「ロビス、おかえり。今回は早かったのね」
暖炉の前で紙の束を眺めていた女性が、こちらを見ずに声だけかけた。
真っ赤な長い髪を1つに縛り、抜群のスタイルを惜しげもなく出すような格好の女性──彼女こそ、ロビスの母親である。
かつては【火の国《バーナブル》】で王女の従者をしていた彼女は、今この町で主婦をしつつ情報屋も営んでいた。
「まあな…今回のは、わりと弱かった」
「そんな事言って…ナメてると痛い目見るわよー?」
「その時はその時だ」
簡単に答えると、ロビスは近くのソファに深く腰をおろした。
敵が弱かったとはいえ、魔力を使えば疲労もたまる。…相棒である魔石付きの短剣を布で磨きながら、ロビスはボーッとしていた。
母親であるヒコは、時折何かを紙に書きつけながら、一枚一枚めくっていく。
彼女は、昔から情報収拾が得意だったらしい。この鎖国に近い状態の国で、どうやって情報を集めているのか…それは、家族にも教えてくれない謎である。
───
「ただいまー…」
それから少しして、家の扉が開く音と共に男性の声が聞こえてきた。
その声に反応して、書類を見ていたヒコがハッと顔を上げる。
帰ってきた人物──この家の主ウルスは、女王陛下の従者だ。
ロビスが帰ってきたのは夕方で、暗くはなっているが“少し”しか時間は経っていない。
今は鎖国状態であるとはいえ、彼が帰宅するには早すぎる時間だ。
…普段忙しい父が早く帰るのは、他二人にとって嬉しい事なのだが…ロビスとヒコは顔を見合わせると、ウルスが入って来るであろう部屋の扉を見つめた。
「………二人とも、どうかした?」
部屋に入ってきたウルスは、無言で見つめてくる妻と息子の視線に驚いて足を止めた。
「今日は、ずいぶん早いじゃない?」
「……クビか。」
「いやいやいや、ロビス!それは酷いだろ!」
不思議そうに言うヒコの言葉に続いて、ロビスが顔を前に戻しつつ言う。
ウルスはその冷ややかな声色に苦笑して返すが、流石に慣れているのかすぐ微笑みを浮かべると二人の近くへ歩みを進めた。
「城へは、またすぐに戻る。…はいコレ」
「…?」
そして、ロビスの目の前に一枚の紙を差し出す。
紙の内容を見たロビスは、文章を何度も読み返すと、前に立っている父親を見上げた。
「…依頼書?」
「そう。しかも、お前が探していた“長期”で“広範囲”の依頼だ。」
それは、護衛の依頼書だった。
この世界には、何かが起こっている──以前からそれが何なのか気になっていたロビスは、依頼書を受け取るとじっくり眺めた。
──依頼内容は、旅の護衛。
範囲は“世界中”…確かに長期、しかも広範囲だ。
だが、依頼主の名前を見てロビスの動きがピタリと止まった。
「“メトナリア・ファストホーク”…女か?」
「知り合いの娘さんでね…ほら、ロビスも何度か会っただろ?俺の親友の…」
「あぁ…リーグスさんか。」
その言葉を聞いて、少しホッとした。
“リーグス”とは、ウルスの親友である。地の国の女王従者で、かなり昔から仲が良いのだという。
彼は、ロビスが小さい頃に何度か家に遊びに来た事があったので、名前と顔くらいは覚えていた。
「メトナちゃんは剣術が得意で、Aクラスの魔物を一人で倒した事もあるらしい」
「は…?」
だが、新たに父親から情報が入ると、紙を見ていた顔を上げて聞き返した。
「それ…護衛必要なのか?」
魔物は、大まかに強さによってS〜Eまでクラス分けされている。
Aクラスと言えば、ロビスの父ウルスが大剣を抜いて何とか倒せるレベルだ。
実はかなりの大女なのではないか…自分で護衛がつとまるのか、ロビスは不安に思ってヒコが座る方をチラリと見る。
…彼女は、自分の仕事に戻っていた。