衆道淫佚

□君の為に出来る事
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焼けるように熱く、拒絶を示すかのように狭いそこは本来ならば、受け入れる場所ではない。女性のような柔らかみの欠片もないそこを、誰が最初にそういうことに使おうと思ったのか。成した者も凄かろうが、成された方も凄い。むしろ後者の方が、負担は大きいことは間違いない。
少なくとも、正気の沙汰ではない。
だからこそ、正気を保てない戦場ではいい麻薬になる。

「う……っく……ひぁ」

師団長がいる天蓋。仄暗い灯りの下で獣が交わっていた。
肢体が跳ねる度に、シーツに皺が寄る。くしゃりと音を立てて、地図にも皺が寄った。

「ヨ……ザ……ク」

その後には何を続けようとしたのか。コンラートの肢体から汗が流れ、噛み殺せずに抜けた音がまた欲を刺激する艶めかしさを宿していた。ヨザックは気を良くして、舐め上げてばかりだったそれを口に含む。途端に強張る身体は、襲いくる快感に逃げを打とうと、シーツに新たな皺を作った。大きく広げられた脚の間にいるヨザックのせいで、閉じることを許されずコンラートは気が狂いそうになる悦楽をやり過ごそうと唇を噛んでいる。

「噛むなよ。傷になる」

腰を支えていた片手を無遠慮に、コンラートの口内に突っ込み、上顎を愛撫する。そうすれば、噛み殺せない嬌声が上がり、だらしなく唾液が顎のラインを伝い落ちていく。腹筋に力が込められ、いよいよ絶頂が近くなりつつある。けれど、後一歩という所で唇を離した。
ぬらりと伝う銀糸を断ち切り、コンラートの顔を覗き込む。

「ヤラシイ顔。他の奴らが見たら、なんて言うかな」

そうさせているのは、他ならぬ自分自身だというのは理解している。いや、こんなことをできるのは自分しかいない。

引き抜いた指がてらつく。噛みつかなかったのは、そういうことだ。
だからヨザックはこの行為を止めない。止めることをコンラートも望んでいないから。
ぬらつくそこは、今にも弾けそうに雫を零して勃ち上がり、腹から内股に力を込められていた。けれど簡単にはイカせない。根元を押さえ、指を堅く閉じられたそこに這わせる。
閉じられていた硝子の散った瞳が絡み付く。微かな嫌悪と、羞恥と、それを上回る期待と欲情。
決して見せることのない本能を露顕していることに、コンラートははたして気付いているのだろうかと、ヨザックは思う。気付いていないかもしれない。気付いているかもしれない。気付いていても、気付かない振りをしているのかもしれない。
どちらにしろあまり関係はない。二人ともこの行為に感情など求めていない上、愛し合いたいと思っているわけではないからだ。

「…っう……くっ…あぁ……」
馴らすために掻き乱した指を引き抜き、猛る自身を突き立てる。途端に洩れたのは、隠しようもない快楽に浮かされた悲鳴じみた嬌声。仰け反る喉に噛み付いて、逃げる腰を抱いて律動を始める。

「ひゃぁぁ…あっ…くぅ…あぁぁぁ…や……め」
「嫌じゃないだろ」

弾けた精が腹を汚す。逃れられない快楽に正気が飲まれたのか、言葉にならない音が無意味に羅列し、ヨザックの耳を刺激する。重量の増した雄にうっそりと笑みを下して、より深く繋がる。

「………生きてくださいよ」

より強い締め付けに促されるまま欲を吐いた時には、コンラートの意識は夢魔に攫われていた。
無茶が過ぎたが、これでいい。これで朝まで目覚めることもないだろう。
自身を引き抜き、汚した体を拭い去る。寝心地が悪くない程度に整えたシーツにコンラートを横たえさせて、ヨザックは深く息を吐いた。
皺くちゃになった地図が視界の隅で、鎮座しながら先ほどまでのことを静かに責めている。

「あんたは……生きなきゃ……駄目なんだよ。隊長」

汗を含んだ髪を指に絡め、それから梳いた。
いつから始まったかなど覚えていない。最初はただの触りっこだった気がする。それから、そうそれからだ。単なる幼馴染みという枠を越えたのは。上司と部下なんかじゃなく、ましてや恋人なんかでもなく。全てを一時的に忘れさせる安定剤めいた関係になったのだ。
微かにコンラートが身じろいで、寝返りを打つ。触れていた髪が零れていった。

「……あんたが生きれるなら、なんでもしますよ」

誓うように口づけを落とす。

「……だから、生きてください」

生きようとしてください。

緩やかな寝息が立つ師団長の天幕を後にした。
苦い味を唇に乗せて。







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