衆道淫佚

□熾盛の焔
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「暑い」

時は夕闇が差し迫る頃。昼間の熱気がそこかしこに蹲る室内は確かに暑い。暑いのだが、それを宣う人物はここの宿主ではない。

「隊長。なにしてんですか?」

そう言わずにはいられなかったのは、ここの宿主であるヨザック本人だ。長期任務の報告を終え、汗を流したその足で仮宿に戻れば、宿主より先にベットで寛ぐコンラートがいたのだ。そう言って、なにが悪いというのか。しかしそんな常識も一部の状況によっては通じないコンラートは、当然というか、やはりというか、じろりと睨んできた。

「暑い」
「夏なんだから、仕方ないでしょ」

当たり前のことを返せば、得意の鋭い獅子の眼光で睨み付けてくる。肩を竦ませたヨザックは荷物を傍らに置いて、だれている猫科動物の元に歩み寄った。

「俺にどうしてほしいんですか?」

銀砂の散った瞳がゆるりと交わる。
普段ならば開けることのないシャツのボタンを三つ開けて、鎖骨を惜しみなく晒したコンラートはたったそれだけヨザックを誘う。当人が自覚しているかは、定かではないが。

「涼ませろ」
「それはちょーっと、無理かなぁ。グリ江にも」
「使えん奴め」
「ひっどーい」


口調の軽さに反した瞳は、まだ陽のある時間には相応しくない情欲の炎が揺らめいている。
枕を背当て代わりにしていたコンラートから枕を奪い、そのままベットに押し倒す。交わる瞳は反らされることなく、互いの動きを見つめていた。

「隊長知ってますか。暑い時には、アツイものがいいそうですよ」
「らしいな」
「アツくなりましょうか」

にーっと嗤うヨザックの瞳は獣の色が濃く、コンラートの瞳もまた同じだった。
瞼の向こうに瞳を隠すことなく、挑発し合うまま絡めている。それが反らされたのが、二人の合図。
ヨザックは開けたシャツから覗く喉仏から鎖骨までを舌で辿る。

「っつ」

開け放した窓からは、夕餉の支度を始める音や子供たちの声が運ばれてくる。そんな時間にやることが、こんなことだというのもどうかしている。じわりじわりと押し寄せる快感に眉を顰めたコンラートは、唇だけで笑みを形作った。

「余裕そうだねぇ」

見もしていないヨザックは絶妙なタイミングでそう語ると、咎めるように胸の飾りを噛んだ。途端に走る快感に声を噛んだが、殺せなかった音が鼻を抜けて、淫靡さを増させた。それに笑むヨザックが腹立たしく、コンラートは見事な上腕二頭筋にさして伸びてもいない爪を立てた。

「まだまだ余裕があんのね」
「この程度で根を上げるわけがないだろう」
「まぁ、確かに」

まだまだ序の口だもんねぇ。嘯くヨザックは心底愉しいと語る笑みを崩すことなく、コンラートのズボンに手を突っ込んだ。ひくりと動く喉仏に噛み付き、そのまま強弱を付けながら扱き上げる。

「その軽口はいつまで続くのか。楽しみだ」
「……言ってろ」
「可愛くない口だな」
「今…に…始…た…こと…じゃ……ない」
「自分で言ったら世話ないな」

そういう所がまたいいのだ。ヨザックは心の中で呟く。

「…こ…れが…俺だ…から…しょう…がな…い」

残された余裕も僅かだろうにそう言ってコンラートは嗤った。気ぐらいばかりが高そうなくせに、どこか野生めいた猫のように。媚びの一つもなく。

「だから、堕としてやりたくなる」
「…や……て…み…ろ」

上がる嬌声が、街の喧騒とどこからともなく降りしきる蝉時雨に打ち消された。







fin

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