雲一小説

□美桜
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 「桜って、やっぱりピンク色っすね」
 その桜の花を見ていた一休が、おもむろにそんなことを言い出した。
「雲水さんも、聞いたことあるんじゃないっすか?」
 一休が雲水を見上げた。
「桜の下に――」
 死体が埋まっている。
 一休は縁起でもないかとだから、そこで口をつぐんだが、その後は雲水にも解った。
 誰が言い出したのか、有名な話だ。
 桜は本当は真っ白で、根元に埋まっている死体の血を吸って、美しく咲くのだと…。
「でも、本当だったら大変ですよね?」
 一休は苦笑した。
「…俺はその話しを聞いたとき、いいなって、思った」
 雲水は桜の木を見上げた。
「死んでしまうと周りの人は泣いたり、悲しんでしまう。でも、桜を見てそんな顔する人はいない」
 一休は黙っていた。
「皆、楽しそうじゃないか」
 雲水は自分の来た道の先を見ようとした。
「自分の死んでしまった血で桜が綺麗になって、皆を笑顔に出来るなら、それもいいかなって…」
 悲しみの付きまとう死とは無縁のような桜の下の笑顔たち。自分の死を惜しんでくれるのは嬉しいことだが。やはり、泣かしてしまうよりも、笑わせてあげたい。
「だから、死んでしまったら火葬しないで、どこかの桜の下に埋められてもいいかもしれないと思った…り…」
 最後の言葉はスムーズに続かなかった。
 急に胸に圧迫感を感じ、人の温もりを感じた。
「そんなこと! 言わないでください!!」
 一休は腕にさらに力を入れた。
「そんなこと、たとえ話でも…そんな…」
 自分の頬を雲水の胸に押し付けた。
「一休…」
 本当に気軽に話し始めたことだった。深い意味はないし、昔ふと思った一瞬限りの願望だったのに。
「ごめんな…別に、死にたいとか思っているわけじゃないから」
「分かってます。けど…」
 このとき雲水は、今までで一番一休の腕の力を感じた。
「死んでしまった後じゃなくて、生きている今、皆を…俺を悲しませないことを考えてください…」
 雲水は自分の心遣いの無さを恥じた。
「解った…」
 雲水もその頭と肩を抱きしめ返した。

 「ん?」
 雲水が体を起こした。
 まだ嫌だと言わんばかりに、一休はさらにしがみついた。
 雲水は一休の肩に手を添えて、ポケットから携帯を取り出した。
 サンゾーからメールが来ていた。
『そろそろお開き。片付けするから一休ちゃん連れて帰ってきてちょーだい』
「片付けに入るらしい」
 携帯をしまいながら、一休に伝えた。
「え――? も――?」
 駄々をこねている小さな子どものような目を雲水に向けた。
 俺に訴えられても…。
 内心そう思ったが、雲水は顔には出さず、一休の頭を撫でてやった。
「とりあえず、戻ろう」
 一休は腕を外してくれたが、明らかにまだ物足りないという顔だった。
 そんな一休を見て、雲水はどうしようかと考えた。
「見所は過ぎてしまうが、今度また来よう」
 一休と目線を合わせて、そう提案した。
「だから、今は皆のところに行こう、な」
「…はい」
 二人は桜を一瞥してから、歩き始めた。
 そして、またどちらからともなく、手を握り合った。
 皆の姿が見えるまで―――。


後記。
でも、結局戻りきるまで手握って来る。しかも本人たち無自覚。
周りは突っ込まないことを暗黙の了解にしている。
何万人もの人がネタに使っているであろうものをあえて書いてみました。
ちなみに、桜の下の死体は、我が小学校ではありがち嘘ではない。猫のお墓がある。
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