雲一小説
□バレンタインデー
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地球温暖化って本当だったんすね。
二月の夜風に当たっているっていうのに、熱いっす。
でも、寒いよりはいいっすよね?だってこれから脱・・・・・。
心の中のちゃぶ台をもう一度ひっくり返した。
けど、考えてみればチョコの代わりって、俺安いなー・・・。
いやいやいや!!雲水さんの機嫌を損ねるくらいなら、俺チロルチョコの代わりにでもなってやります!!
俺の雲水さんへの愛は値段の問題じゃない!!
そしてついに雲水さんの部屋のふすまを開けた。
「雲水さん!」
なんか気合入ってんな、俺。
「来てくれたか」
呼んでいた本から俺へ視線を移してくれて、雲水さんは笑いかけてくれた。
やっぱりこの笑顔を崩したくない。
俺は部屋に入ると、雲水さんのまん前に座った。なぜか正座。
膝の上に乗せたこぶしを見つめて、バコバコうるさい心臓の音を聞きながら、どう切り出したらいいのかと考えていたら、目の前に黄色いリボンでラッピングされた箱が静かに現れた。
「受け取ってくれないか?」
箱を持っている手をたどって視線を上げると、さっきと変わらない笑顔のままの雲水さんがいた。
「あ、あの・・・」
言葉が出なかった。
「遅れてすまなかったな・・・お前だけにやるものだから、皆の前では気が引けてしまって・・・」
雲水さんの眉が少しだけ下がった。
力の入らない手でその箱を受け取った。
「ハッピー・バレンタイン。一休」
目を細めてそう言ってくれたが、俺が何も言わずにチョコを見つめているのに気付き、雲水さんはあわてた。
「嬉しくなかったか?・・・チョコ、嫌いじゃ無かったよな?・・・どうした?」
身を乗り出して俺を気遣ってくれた。
「チョコ、買うの恥ずかしくなかったっすか?」
ようやく声を絞り出すことが出来た。
「・・・いや。なぜ恥ずかしがるんだ?」
「だって・・・」
「バレンタインに、お前にチョコをやるのは恥ずかしいことじゃないだろ?」
雲水さんは、恥ずかしがるという気持ちすら浮かばなかったんだ。
なのに、なのに俺は。
「・・・ごめんなさい」
「一休?」
「俺、チョコ用意できなかったっす・・・」
自分に恥ずかしくなった。泣きそうなくらい恥ずかしかった。
「いいんだ、一休。お前がそのチョコを食べてくれれば、俺は充分だ」
「・・・・」
チョコを脇に置くと同時に雲水さんに抱きついた。
「一休?」
「大好き」
腕に渾身の力を込め、雲水さんの服をめいっぱい握り締めた。
「大好き・・・鬼好きっす!・・・誰よりも、何よりも好きっすから!!」
雲水さんのこと。
「大好きっす」
「・・・ありがとう」
「大好き・・・」
「ああ」
雲水さんも、俺の肩にそっと頭を寄せ、背中に腕を回してくれた。