雲一小説

□新たな決意生まれし時
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それから、時は長くたった。

「本日の練習は、これで終わり…」
監督への挨拶を合図に神龍時ナーガの長い練習は終わった。今は、大詰めの時期で練習時間は普段よりも大幅に延長されていた。
上級生が防具などの片付けをしている間、一部の一年生の中でじゃんけんが繰り広げられていた。結果は、遠目でわかるほどのリアクションをした敗者で、一発でわかった。
「よし。それじゃあ、今日のボール集めは一休の仕事な」
清水弥勒が楽しそうに一休を指差した。
「なんか、ここんとこずっと俺のような気がする…」
一休が肩を落としながら、小さく愚痴った。
「そんな事言ったって、俺らはずるなんかしてないぞ。お前の運の力だ」
それじゃあ、頑張れよと口だけで応援しながら、他の一年は部室に向かっていった。
一休は、口を尖らせて同級生の背中を見ていたが、すぐに思い直して、ボールかごをとりに行った。
そしたら、かごの近くで持っているボールを見つめている雲水の姿があった。
「雲水さん!?」
一休が呼んだことで、雲水は顔を上げ一休と目を合わせた。
「どうしたんすか?もう、片付けますよ?」
そういって、ボールを指差した。
「……ああ…」
雲水はまたボールに目を落とした。そして思い立ったように、一休を再び見た。
「いや。まだ片付けなくていい」
雲水はかごの縁に手をかけ、グランドの真ん中に持っていこうとしていた。
「え?…ま、まさか雲水さんまだ練習するんすか?」
一休は驚いて目を見開いた。
「ああ……」
雲水はそう答えただけだった。まるで当然のことのように。
一休は改めて雲水の勤勉な姿に驚嘆した。今はもう空だって、夕日の色に一面染められている。延長していたため、いつもより時間は長いし、その分雲水だって疲れているはずだった。それでも雲水はグランドの真ん中に立とうとしている。
一休はこの瞬間、もともと尊敬していた雲水をさらに慕うようになった。
「雲水さん!!」
一休は、雲水のところに走っていった。雲水はゆっくりと振り返った。
「俺、レシーバーやります!」
「え?」
一休の急な、まっすぐの申し出に雲水も一瞬驚きの表情を見せた。
「キャッチする人がいたほうが、雲水さんも練習になりますっしょ?だから、俺やります!」
一休は雲水に笑いかけた。
「しかし…疲れているだろ?無理に付き合わなくてもいいぞ。これは俺の個人的な練習なんだから…」
雲水は一休をやさしく断ろうとした。自分のせいで、一休の体に無理をさせたくはなかった。
「いいえ!大丈夫です!!俺の練習にもなりますしね」
一休は雲水の顔を覗き込んできた。じっと目だけで返事を待つ姿に雲水も首を縦に振った。それに一休も言ってくれたように、レシーバーがいてくれたほうがやりやすいのは確かだった。
「それじゃあ、頼む」
「はい!!」
雲水はボールを手に取り、二人はポジションについた。
「ロングパスの練習をしたい。20ヤードを越したら投げるからな」
「はい!!」
二人の顔つきは一瞬にして真面目な顔になった。
「一回目の合図で走れ」
「はい」
雲水の合図の声が響くとともに、一休は走り出した。

気付けば、空は夕日の赤から夜への境の紫色への変化していた。
「雲水さん。そろそろ止めにしないと。いくらなんでも暗くなってからの練習は無理がありますよ」
一休が空を見上げながら言った。改めてみると視野が暗くなり、これ以上の練習は身体の他に視覚にも負担になるような状況だった。
「…ああ、そうだな」
「じゃあ、片付けますか」
一休はボールかごを持ってきた。
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