雲一小説

□印象な微笑み
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「それ、どこに持っていくのだ?」
雲水が一休の背中に問いかけた。
「職員室っす」
「それなら、この角を曲がったほうが速いぞ」
雲水は自分たちが来た道を指差した。
「あ、はい」
一休は振り返り、その道を選んだ。
「その先の角を左だ。そしたら分かる」
「はい」
そのまま進もうとしたが振り返って、二人を見た。
「ありがとうございます。先輩!」
一休はすぐに前に向き直り、小走りで角を曲がってしまったため、雲水が何か言おうとしたことに気が付かなかった。そして阿含が腹をかけていることにも。

「あ――こりゃ、傑作だ」
阿含は壁に頭を寄りかからせていた。口は笑いで引きつっている。
「あの子勘違いしたまま行ってしまったな」
雲水は一休を呼び止めようとしたまま上げた手を固まらせていた。
「よほどお前老け顔なんだな」
阿含は雲水の方に寄りかかってきた。
「その老け顔と双子なんだぞ。お前は」
「あ―そう考えるとやだな」
「おい」
雲水はまだくっくっくと笑い続けている弟を無視して、さっきの少年を思い出していた。
 名前を聞いてなかったな…。
ほくろのある笑顔が印象に残ってしまった。
ふと自分の肩で笑っている弟を見た。
「ああいう弟が理想的だな」
雲水は唐突に呟いた。
「あ。酷い。実の弟の耳元で言う?」
阿含は少なからず傷付いた反応を返してくれた。
しかし、さっきの言葉は雲水の本音だ。
「老け顔の兄は嫌なんだろ?」
雲水は歩き出そうとした。
「ああ、待てよ。お兄ちゃん」
「気色悪い」
歩き出そうとした兄に、阿含はしがみ付いたままで動こうとしなかったため、雲水に引きずられるように進んだ。
雲水は弟に説いた。
「俺って、そんなに老け顔か?」

金剛兄弟は今年神龍寺に入学した。
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