雲一小説

□ホクロずきんちゃん
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あるところに、小さめで愛くるしい子がいました。この子ときたら、見ると思わずいじめたくなるくらいかわいい子でした。
中でもその子を気に入っている(らしい)監督は、ある日赤いずきんをその子にプレゼントしました。
「え?俺そんなに監督に気に入られてたんすか?」
赤いずきんをかぶった一休が言いました。
「だってよくもの頼まれてるじゃない」
サンゾーが言いました。
「それって、ただパシリやすいだけじゃないっすか?…って、もしかしてこのずきんもパシリを見つけやすい目印なのかも?」
「そのわりには、いつもかぶってるじゃない」
「だって、じゃないとあの人鬼寂しそうな顔するんスもん」
いつもかぶっているので、皆一休のことを『ホクロずきん』と呼ぶときもありました。
「こんな目立つ赤よりも、ホクロのほうが先に目がいくってことっスか!?」
「当たり前じゃない」
最大チャームポイントである。
「それより一休チャン。監督にお菓子とぶどう酒、持ってってあげて」
「え?何でっすか?病気でもしたんすか?」
「いいえ。今でも滝に打たれに行くほど、しっかりしてるわ」
「…じゃあ、何で?」
「そうは言っても、もう高齢だから時々生存確かめないと。亡くなってたら、葬式あげないとだし」
「鬼シビアな理由っすね」
「それから、一休チャン!」
サンゾーは改めて、一休と向かい合った。
「最近、街にかわいい子を狙う狼が出るっていう噂だから、気をつけなさいね」
「はぁ、わかりました」
返事をしてから『なんで街中に狼が出るんだ?』と疑問に思ったが、すぐに流してしまった。
「てゆーか、何でサンゾーさんが母親役なんすか?」
「成り行きよ。役なんだから、深く考えちゃダメよ」
「そうっすね。本当にサンゾーさんから産まれた、なんて言われたら、俺グレます」
「なんでよ!?」
「いってきます!!」
ホクロずきんはバック走でさっそうと出掛けて行った。



一休が監督のところへ行く途中、例のメンクイ狼、もとい阿含と出会いました。
「よぅ。一休」
「あ!阿含さん。おはようございます」
単に純粋な、略して単純な一休は、阿含の女癖と素行の悪さは知っていましたが、まさか自分を狙うはずがないと思い、普通に阿含になついてしまっていた。
「どこ行くんだ?」
「監督のところにぶどう酒持ってくんすよ」
一休はバスケットを見せた。
「ジジィには見事に似合わないものだな」
「確かに」
仙人を思わせる風貌な監督に、ぶどう酒は似合わない。


狼…いや阿含は、しばらく一休と並んで歩いてましたが、いきなり一休の肩に手を乗せて、一休の歩みを止めてきました。
「なー、どうせならここで飲んじまおうぜ」
「えー。ダメっすよ」
一休はしぶった。
「持ってっても、飲まねーって、それなら、手間賃としてもらってけって」
「でもぅ」
「いいから。あっち良いとこあるからよ」
阿含は一休の体を脇道に向けさせた。
「え?やですよ!あっち人気が無くて、薄気味悪いっスもん」
一休は足に力を入れて、抵抗した。
「あ゙?じゃあ、ここでもいいのかよ?」
阿含は巧みに腕を使って、一休を一本の木に追い込んだ。
「な、なんすかー!?」
一休は阿含の腕の中でもがいた。
「そんなに、ぶどう酒飲みたいんすか!?」
「お前…アホ?」
阿含は眉をひそめた。
すると、突然鋭い顔で林の中に目を向けた。
「阿含さん?」
一休は見上げて、首を傾げた。
「チッ…タイミングの悪い」
ザッと素早く、一休から体を離した。
「じゃあな、一休」
無駄に爽やかに消えて行った。
「阿含さん、何しに来たんだろう?」


服のホコリを叩いていたら、林からガサガサと音がした。
「誰か居るのか?」
一人の男が現れた。
「雲水さん!」
雲水、何を隠そう彼は先ほどの阿含の双子の兄である。弟とは正反対の人格で、多くの者から信頼をもらっていた。
「一休」
一休は雲水と解った瞬間、駆け寄り、ぽふっと抱きついた。
「どこに行くんだ?」
「監督のとこー」
「そうか」
雲水は一休の頭を撫でた。
「一休、阿含を見なかったか?」
「阿含さん?さっきまでここにいたっスよ」
「あいつっ…!」
雲水は小さく舌打ちをした。
一休は知らないが、狼と呼ばれている阿含の素行を正そうと、日々弟を追いかけていることから、雲水は狩人という別名を付けられていた。
「一休、阿含に何かされなかったか?」
雲水は両手で一休の肩を掴んだ。
「別に…あ。ぶどう酒は盗られそうになりましたが」
でも大丈夫、と一休はバスケットを上げた。
「そうか…」
雲水の顔にはまだ不安が残っていた。
「一休、気を付けてくれ。あいつ最近、お前を狙っているらしいから」
「ははは、何言ってんすか?雲水さん」
一休は冗談と思い、笑い飛ばした。
しかし、雲水は真剣だった。
何か考え込んだ後、腰を伸ばした。
「一休、監督のとこまで、一緒に行こう」
一休に手を伸ばした。
「え?本当っスか!?」
一休は迷わず雲水の手を握った。
大好きな雲水と一緒にいられることに、頬を上げた。
雲水も嬉しかったが、近くにいるだろう阿含に神経を尖らせていた。
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