雲一小説

□ルームメート
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「雲水さん、まだ起きてますか?」
「ああ」
「じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」
夜のあいさつをすると、俺は布団をかぶった。

神龍寺の寮で雲水さんと俺は同室だ。
つまり、夜は布団を並べて過ごす仲というわけだ。
うわっ…こう言うとなんか怪しい…。
そんな俺達だが、いつもいつも先に寝るのは俺の方だ。
雲水さんはその時間に机に向かっている。本を読んでいる時もあるけど、たいていは勉強してる。
予習復習はもちろん、たとえ提出が一週間後である課題でも、出されたその日のうちから手をつける人なのだ、雲水さんは。
凄いなぁと思いながら、俺は睡魔に勝てず、先に布団に入ってしまう。
少し情けないなと思いながらも、これだけはしょうがない。アメフト部の練習は結構ハードなのだから。
え? 雲水さんもアメフト部だって?
この人は特別!いろんな意味で。
別に電気が点いたままでも寝れる俺が先に布団に入るのは、この部屋では日課のようになっていた。
これが一つ目の日課

もう一つは、たぶん日課だと思うことがある。
たぶんというのは、それが本当に毎日行われているのか?ときかれたら『たぶん』としか言えないから。
それが行われているとき、俺が寝ていることもあるから。
けど、たまたま起きているときは必ず行われているから、たぶん日課なんだと思う。
それが何かと言うと、
俺の布団が動くのだ。

あ。すみません。
これじゃあ、まるで怪奇現象っすね。
正確に言うと、動くのは掛け布団だけで、動かしているのは幽霊とかではなく、雲水さんなんです。
雲水さんが寝る前、あるいは目を覚ましたとき、俺の布団を掛け直してくれる。足とかがはみ出しているときは、それも直して、きちんと肩まで布団を掛けてくれる。
最初は、俺の寝相がそんなに見るにたえかねない姿だったのかと思ったのけど、たいして乱れていないときでも雲水さんは軽く布団を持ち上げて、やっぱり肩まで掛け直してくれる。
なんというか…本当に真面目でお兄ちゃん肌な人だなぁ。
俺はというと、雲水さんが布団を掛け直してくれてる間、起きているときは寝たふりをしている。
雲水さんが自分のしたことで俺を起こしてしまったと知ったら、自分を責めてしまうだろうし。なんとなく、恥ずかしい。
子どものように扱われていることが恥ずかしいじゃなく、それにたいしてちょっと嬉しいと感じている自分が恥ずかしい。
さらに、ときどき雲水さんは頭も撫でてくれる。
そうされると、俺はにやけそうになる口元に力を入れて、必死に寝たふりをする。
なんか、くすぐったい。


その日も俺が先に布団に入った。

そして、寝ているのか、起きているのあやふやな意識のとき、雲水さんが隣に来るのが気配でわかった。
ああ、やっぱり今日もっスか…。
今日はたまたま右手が枕元に出たままだった。
そしたら、やっぱり雲水さんはその手を優しくつかんでくれて、布団の中に入れてくれた。
布団の中より、雲水さんの手のほうがずっとあったかいのに…。
ん? 俺何考えてんだ?
雲水さんは手を放すと、いつも通り布団を肩まで被せてくれた。
髪の中に指が入ってきたのを感じた。
頭皮に触れるか触れないかというところを、やわらかく流れてく。
どう見ても子ども扱いな行為っスけど、ふわふわといい気分になってしまう。
雲水さんがお兄ちゃん肌なら、俺は弟肌なのかな?
でも、まあいいや。
雲水さんの指が一瞬止まってから頬に下りてきた。
やばっ!頬緩んだの、バレたかな?
指先だけだったのが、手のひら全部が当たってきた。
あったかい…。
雲水さんいるところの畳がきしむ音がした。
ん?どうしたんだろう?
そのまま寝たふりを続けていたら、柔らかいものに口を塞がれた。
びっくりして、目を開けると、めちゃくちゃ鬼近いところに目を閉じた雲水さんの顔があった。
え? え――――!?!?!?!?
唇が離れると、とっさにまた目を閉じた。
って、何でまた寝たふりしてんの?俺?
雲水さんが体を起こすのがわかった。
親指で頬を一撫でされてから、手も離れていった。
そして自分の布団に入ったみたいだった。

えっと……………。
俺さ、今さ……。
その………………。
………………………キスされた?
っスよね?
う、………うわ――――――――!?
何で!?何で!?何で!?何で!?何で!?何で!?何で!?×∞
ちなみにファーストキスです。
関係無い?
いや、むしろ重要!?
てか、俺男っスよ!?雲水さん!!
あ。もしかして『おやすみのキス』?
って口だっけ?
雲水さん、もしかして欧米文化に憧れてる?
でも、それなら神龍寺入んないっしょ!!

しばらく俺は心の中で叫びまくった。
雲水さん…何で?
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