雲一小説

□亀裂
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ある休日の午後、街を歩く一人の青年に女が親しげに話しかけてきた。
そのまま二人は言葉を交わしていた。
それを離れたところから目撃してしまった者が一人。
この者は、その青年と関係がある人物だった。嫉妬に瞳を燃やして、その場を去った。

物語でよくあるワンシーンだ。
しかし、去って行ったのは青年と同性だった…。


神龍寺に新聞部があったなら、一面記事を飾っていたかもしれない。
「もういいっス!雲水さんなんか知らない!!」
「一休!!」
走りだした一休を雲水は一瞬追いかけようとしたが、思い直してその場でため息をついた。


「で、何があった?」
部室に入るなり、雲水は部員の詰問に囲まれた。二人の口論はここまで響いていたらしい。
この二人のことは、普段なら基本ノータッチなのだが、今は話題が無いのと、初めての波乱ということで少し興味がわいたらしい。
「いや、何でもない……とは言えないか」
雲水は皆の視線を読んで悟った。
「一休が何かしたのか?」
雲水が一休に害を与えるというのは、いささか想像出来ない。
「一休は悪くない…」
ということは、雲水が!? いや、そんなことはないだろ。
「…すまないが、二人の問題だ。これ以上聞かれても正直困る」
そう言われては、引くしかない。
しかし、雲水の吐き出す息が毎回ため息に聞こえると、どうも何があったのか聞きたくなってしまうのが人間だ。

というわけで、今度は一休に詰問だ。
「で、何したんだよ?」
あくまで一休が何かをしたという前提で話を進めたがっている。
「俺はなにもしてないっス!」
ぷいっと一休はそっぽを向いてしまった。
「雲水さんが…雲水さんが浮気したんです!!」
「んなわけないだろ?」
即座に訂正が入った。
「でも、でも…」
そのまま一休は泣きそうになって、出て行った。


それ以上、皆深入りはしなかった。
というよりは、どうせ一休の勘違いだろうと思い、ほっといたらどうなるのか見たかったらしい。



しばらくは雲水が一休に話を聞いてもらおうと、追いかけていく姿が目立った。
しかし、朝食のときも、廊下で会ったときも、一休は返事も返さずにスタターと雲水から逃げていた。
それでも、なぜか部活のプレーには影響は出さなかった。
そこは一休の空中戦へのプライドの問題なのだろう。


そしてついに、雲水が一休の腕を掴んだ。
「一休、頼むから話を聞いてくれ!」
と言われて、今までさんざん避けてきた一休がさらりと聞くはずもない。
「やぁ―――――!!」
当然、腕を振り回して抵抗した。
「一休!」
雲水は眉をひそめた。
その時、ついに一休の振り回していた手がパシンと鋭い音を出して、雲水をはたいてしまった。
「!!?」
ぶつけてしまった一休も自分のしたことに驚いたのか、一瞬目を見開いて雲水と目を合わせたが、すぐに涙をためて走ってしまった。
残された雲水の背中に誰も言葉をかけることが出来なかった。

もうここまでくると、見物どころか本当に見ているだけしか出来なくなる。
日頃から近くでバカップルをしていて、ウザイ・止めて欲しいと誰もが思っていたが、今の空気に比べたら、イチャついてもらっていた方が精神的にはるかに楽だった。
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