雲一小説

□「必ず・・・!」
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野球のOB戦で神龍寺の一休先輩と会った。
それまで一休先輩のことは関東最強のCBとして、次の試合で闘う強敵選手くらいにしか思っていなかった。けど、俺のキャッチを褒めてくれたときの笑顔はすごく親しみやすいものだった。
一休先輩と笑い合うのが心地よかった。

モン太は部屋でグラブの手入れをしていた。たとえアメフトに移っても、本状選手への憧れの気持ちは変わらない。手入れも前と同じく欠かすことなくやっていた。
けれど、昨日より少しだけ気持ちが軽かった。
正直に言うと、本状選手への憧れを持ったままアメフトに移ってしまったことに、心のどこかにわだかまりがあったのかもしれない。けれど、アメフト界で最強といわれている一休も本庄選手への憧れを持っているとわかって、今日は気分が軽かった。

そうだ!このグラブを一休先輩に見せたら、絶対に喜んでまた笑ってくれるに違いない。



ところ変わって、ここは神奈川の神龍寺学院。
「雲水さん、ただいまー!」
「一休、お帰り」
一休は誰よりも先に雲水へ駆け寄った。
「ごめんな…一緒に行ってやれなくて」
「いいんスよ。用事があったなら仕方ないですし。雲水さん、野球に興味ないじゃないですか。無理しないでください」
「………」
雲水は一休の心遣いに心温まり、一休の頭を撫で始めた。
「あ、そうそう! 泥門の奴らに会いましたよ」
「野球場でか?」
「はい。アイシールド21と、サ…えっと、サルみたいな奴」
『サル君』というのは止めたが、やはりそれしか思いつかなかった。
「ああ、あのレシーバーか」
通じてしまった。
「彼も野球を見に?」
「はい。サル君がね、同じ本庄さんファンだったんです!」
「そうか…良かったな。共通の趣味を持つ者と知り合えて」
「はい!」


しばらくしてから、一休の携帯が鳴った。
「メールか?」
「はい。あ」
「どうした?」
携帯を開けた一休が声を上げたので、声をかけてみた。
「サル君からっす」
「え……?」
「明日、練習延長じゃないっすよね?」
「ああ」
「ちょっと呼び出されたから、行ってきますね」
「………」
一休が誰と友好を深めようが、自分には口を出す権利など無いと思い、雲水は口をつぐんだ。



「ただいまー」
「どうした?遅かったな」
「ちょっとだけっすけどね」
一休はいつものように雲水の隣に来た。
「阿含さんのデートについて行ったら『いい加減帰れ』って、追い出されました」
「…泥門のレシーバーに会いに行ったんじゃないのか?」
「…ああ」
一休の目が半眼になった。
「あいつ、たいしたことなかったっす」
「ん?」
一休は植木鉢の件を話した。
「少しでもすごいと思った俺がバカでした」
「一休…」
「やっと、手ごたえのあるレシーバーと戦えると思ったのに…」
一休は顔を伏せた。

もちろん。同じ野球選手のファンとしてもいい奴と出合えたと思っていた。
けど、それ以上に野球場でのキャッチを見て、やっと腕のいいレシーバーのいるチームと対戦ができると思っていたのに…。
今まで強い選手と言ってもLBやライン達ばっかで、西部の鉄馬やエベレストパスを身につけた桜庭など、一休がCBとして一対一でいい勝負ができるレシーバーは居なかったのだ。
ノーマークだった次の対戦相手のレシーバーができると思って、そっちのほうが一休としては嬉しかったのだ。
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