雲一小説

□犬、再び
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 神龍寺学院、ただいま盆休み真っ最中。一人ではフォ―メーション関係を始め、出来ないものが多く、練習の種類が限られる。そのため、家では筋トレが主となる。
 というわけで、今雲水は今日もロードワークから帰ってきたところだ。
家の門を開けた。高校で寮に入ったとはいえ、それまで育ってきた家であるため、門だって後ろ手で閉められる。
 今日も無意識にそうしようとしていた。
 キャウン!!
 そこそこ手ごたえのある感触がした。振り向いて納得した。
 柴犬を挟めてしまった。
 
 とりあえず、そのままではかわいそうだと思い、門を再び開けてやると、その犬は尻尾を振って家の敷地に入ってきた。
 ぴょこぴょこと元気に前足を脚にのせてきたこの犬に雲水は心当たりがあり、呼んでみた。
「・・・宗純?」
 犬は目を合わせてきて一言吠えた。
 可能性は高まった。
 宗純は一休の家の犬である。雲水はこの休みに偶然、その犬と散歩をしている一休と会ったことがあった。そのときの人懐こさを思い出しても、今、目の前に居る犬と接点が多いと思った。
 実は、そのとき宗純は一休の手をすり抜けて雲水のところへ来ていたのだ。
 もしかしてと思い、門の外を覗いて辺りを見回しても、一休の姿はなかった。もろもろの確認を入れてみようと、部屋へ携帯をとりに行こうとした。
 携帯電話を携帯しない雲水。
 おそらく自分のロードワークについてきたのだろう。テンションの高くなってしまっている宗純は、遊んで欲しいのかびょんびょん雲水に飛びついてきた。片手でそれとなく相手をしながら玄関を開けた。玄関でおとなしくいしてくれればいいのだが・・・。
 カツカツカツカツ。
 と思った矢先にフローリングの廊下に爪の音が響いた。
「そ、宗純!?」
 あわてて靴を脱いで追いかけようとしたが、宗純は自分の名前には敏感らしい。呼んだら振り向いてカツカツと戻ってきてくれた。
 雲水は宗純を抱えると、風呂場へ連れて行った。
 
 足を洗ってやると、雲水は今度こそ部屋へ向かった。宗純はもちろんついてきた。
 携帯を開いて、電話帳から『細川一休』を見つけると、電話をつなげた。
 数秒後、呼び出し音がした後、つながった。どうやら外に居るらしい。
『・・・・もしもし?』
 上がった息の間に返事がした。走っていたのか?
「一休、ちょっと聞くが。お前の家の宗純・・・居るか?」
『え? な、何で?』
 驚きようで本当に居なくなっていたのが分かった。
「今、うちに柴犬が来ているんだ。もしかしてと思って」
『ああ!たぶんそうです!! 宗純です!!』
 思わず叫んでしまったであろう一休の声が携帯から漏れたらしい。宗純が飼い主の声に反応して、吠え始めた。
『宗純!!』
 宗純は甘えた高い声を出し、尻尾を振っていた。
『良かったぁ』
 安心したのか、気の抜けてしまったような声がした。
「そっちに送っていこうか?」
『あ。いえ。いいです。俺、今外に居ますし・・・俺がそっちに行きます』
「そうか」
『ですから、そのまま隔離しててください』
 隔離?
 本来のその言葉の意味で、この状態と結びつけるのは無理があるが、なんとなく言いたいことは伝わった。
「・・・分かった」
『じゃあ、今からいきますので』
 そう言われて電話を切られた。
 雲水も耳から携帯を離し、通話画面を消した。
 主人の声が聞こえた小さい機械を不思議そうにも、名残惜しそうにもとらえられる表情で、宗純が携帯に鼻を向けてきた。雲水は携帯を宗純には届かない机の上に置いた。
「今、一休が来るからな」
 一休の名に反応のしたのか、宗純の尻尾の動きが激しくなった。
 一休が・・・来るのか。
 久しぶりだな、と思った。
 休み中、この前公園であって以来一休と顔は合わせていない。メールや電話は何度か来て、コミュニケーションはあったが『会う』ということはなかった。その期間は決して長いものではなかったが、その前の一緒に居た時間が長く、多かったため、あのころころと笑う表情がないとどこか寂しかった。
 宗純が鼻を押し付けてきた。雲水はしゃがんで両手で宗純をなでてやった。
 よく家に来てくれたな。
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