雲一小説

□犬
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 強豪、名門ゆえに練習もきつい神龍寺ナーガ。夏休みはむしろ絶好の練習日和だ。
 しかし、さすがに盆休みはある。その期間、寮は閉められ、部活動もなくなる。
 
とは言っても、休みなんて金剛雲水は知らない。
実家に帰っても休みなどせず、ただいま早朝もロードワーク真っ最中。
ちょうど折り返し地点である公園に入ったところだ。まだ午前の早い時間、ここまでの道と同じようにまだ人の活気はなかった。
端側に設置されている水飲み場により、水分補給をした。真夏の気温で水温は低くはなかったが、汗を流した体に水分は必要だ。
ついでに、下部についている下向きの蛇口の下に、かがんで頭をいれ水を流した。坊主にしていると、こういうときに楽だ。
充分濡らすと、頭部全てをタオルで包み込み、余分な水分をふき取った。
くぅ〜ん。
……犬?
顔を覆っていたタオルを下ろすと、目の前にちぎれんばかりに激しく尻尾を振っている柴犬がこちらを見つめていた。
首輪からは散歩用のリードが垂れ下がっていて、舌を出した口で激しい呼吸を繰り返していた。
柴犬は蛇口を見ては、またこちらを見て首をかしげた。
水が欲しいのかと思い当たり、蛇口をひねって水を出し、飲みやすいよう両手で水を溜めてやると、待っていたとばかりに鼻面を突っ込んできた。
ぴちゃぴちゃと時々手のひらに当たる舌の感触がくすぐったかった。
充分だと言うように犬は口を離し、鼻に入った水を、ぷしっとくしゃみで吐き出した。
雲水は蛇口をひねり、水を止め、手をタオルで拭いた。
満足した犬は人懐っこくこちらを見て尻尾を振っていた。
何かを思い出しそうだな…。
手を伸ばすと、ざらりとした舌でまた舐められた。
「そーじゅーん!!」
よく知っている声が聞こえた。
まさかと思い、立ち上がって声の主を探した。
すると、公園の入り口からその主が走ってきた。聞き間違いじゃなかったようだ。
一休だ。
「そうじゅ…雲水さん!!」
雲水の姿を確認すると同時に、一休の表情が輝き、全力疾走してきた。
スピードをゆるめずに、一休は雲水の胸に飛び込んだ。雲水もちょっと足を踏ん張り、一休を受け止めた。
「お久しぶりです!」
一休が顔を上げ、満面の笑みで見上げてきた。
「一昨日、別れたばかりじゃないか…」
「でも、昨日は会ってませんよ?」
雲水が答える前に、一休は頬をジャージに押し付けてきた。
「雲水さん…」
自分は汗臭いと思うから止めて欲しいのだが、そう言っても一休は離れないのを雲水は知っていた。
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