雲一小説

□一瞬の輝き
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くるくる きらきら。
ゆっくりと回る色が囲まれた鏡にその姿を広げられていた。
キレイ……
こんなに飽きることなく変わり続けて、無限かと思うくらいの模様を作っているのに、構造は三面の鏡と数種類の色紙だなんて、人はなんてものを思い付いたのだろう。
この発明は特に生活を潤したり、便利にしたりはしていないが、そのきれいな色を俺は確かに気に入った。
くるくる きらきら。

ところで、俺は何処に向かって歩いてたっけ?
ああ、そうだ。部室から部屋に戻るところだった。右目にくっつけられた先の色を見るため、視界は遮られていたが、毎日何回も歩いている廊下だ。大丈夫だろう
そろそろ右に曲がるはずだ…。
確かめるため、瞳に当てていた色をずらした。
ドンピシャ。
俺はちょうどその右曲がりの廊下の角のど真ん中に立っていた。やっぱり身体に染み付いていたようだ。
体の向きを変えて、歩き始めると俺はまた色を覗いた。
目を離すのが惜しい気がしたのだ。もしかしたら、その目を外した一瞬に驚くような模様があるのかもしれない。そんな可能性を夢見て俺は色を覗き続けた。
くるくる きらきら。
そろそろ左に曲がるっけか? いや、まだ先のはずだ。

その時、今まで気付かなかったが、太陽が雲に覆いかぶさっていたらしい。その雲が風にでも動かされて色の模様の先に光が入り込んできた。
「うあっ…!」
明かりは囲まれた鏡に捕らえられ、色の破片に光の粒となってくっついた。
鬼キレイ……。
俺は色と光の模様にバカみたいに口を開いて見とれていた。

「一休!!!」
突然腹を後ろから引き寄せられ、背中に人の温もりを感じた。
この人はさっきの声の主だ。それならよく知っている。毎日聞いている。
「雲水さん!!」
俺は色を目から外して、首をのけぞらしてその人を見た。思ったより近くに顔があった。あれ?俺、背伸びた?
そんなことを考えたのはほんの一瞬、雲水さんの顔が驚きと心配の表情だったからだ。
「どう…」
「危ないじゃないか!? 前を見て歩け!!」
「へ?」
強く怒鳴られたわけじゃないが、びっくりした。
別に何も無い廊下を歩いているだけで、危ないものはないはずだ―――と、自分の足元を見下ろしたら、見慣れた廊下の木目の終わりと、雑草の混じった土の色が見えた。
何も無い廊下。確かに何も無い。縁に手すりもない!!
「鬼危ねっ!!」
俺は自分の体を支えてくれた腕を掴んだ。この腕が伸びてこなかったら、確実に落ちていた。
ああ、そうか。さっきもう少し先だと思っていた角にもう着いていたのだ。
雲水さんの方が安堵のため息を付いた。
「あ、ありがとうございます!!」
「…いいんだ。怪我をしなければ」
そう言って俺の頭を撫でてくれた。
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