雲一小説

□甘えと依存と束縛
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「一休、爪伸びてるぞ」
「あ、本当だ」
「今のうちに切っておけ」
「はーい」

「寒くなってきたな。防寒着の準備しておけ」
「はーい」

「一休ほら、早く汗をふけ」
「はーい。雲水さん、明日何時集合でしたっけ?」
「8時だ」
「えー、ちょっと早いっすねー」
「起こしてやるから」
「じゃあ、今日雲水さんのとこに泊まってもいいっスか?」
「ああ。着替えとかも持ってこい」
「はーい」




「なあ、雲水」
部室に残り日誌をつけていた雲水に、山伏たち三年生が話しかけてきた。
「お前、最近一休のこと甘やかしすぎじゃないか?」
「そう…ですか?」
雲水自身はそんな自覚はなかった。
「ああ。ちょーっと過保護っぷりが目立ってるな」
竜崎が机に肘をついた。
「はあ…」
「ま、確かにお前は兄貴肌だし、一休は手を貸したくなるけど」
「………」
「ちょっと構いすぎだぞ」
「しかし」
一休に構うなと言われたら、コミュニケーションが取れなくなる。そんなこと、考えただけで苦しくなる。
「このままだとあいつ、お前がいないと何も出来なくなるぞ」
「そんなことは…」
「一休を将来駄目な大人にしたいのか?」
「…!!」
この言葉には雲水も口をつぐんだ。
自覚はないとはいえ、人にそう見えているということは自分はそれなりに一休を甘やかしてるのかもしれない。
もしそうだとしたら、二人がそのままの関係に慣れてしまえば、一休は人に甘えることが癖になってしまうかもしれない。それは将来、彼にとっていいこととは言えないものだった。
「……解りました」



「雲水さーん」
とてとてと一休は雲水に近付いてきた。
「何だ?」
「数学教えて下さい」
「どうした?いきなり」
「明日テストがあるんすよー。で、40点以下だと再テストだっていうんです」
「そうか、じゃあ部屋に…」
ここで雲水ははっとした。先日の先輩方との会話を思い出したためだ。
「――っ…」
歯を食い縛った。
「雲水さん?」
一休はきょとんと雲水を見上げていた。
「一休」
雲水は一休に視線を合わせて、腕を掴んだ。
「一人で勉強しろ」
「え!?」
一休は固まった。
「む、無理っす!」
あわてて首をふった。
「出来ない…雲水さんがいないと」
「一人でもやれることを証明するんだ!」
雲水がそう言うと、一休は唇を噛み、体を震わしていた。
「一休…」
雲水は一休を抱き締めた。
「俺だって、本当は教えてやりたい…けど」
『このままだとあいつ、お前がいないと何も出来なくなるぞ』
「……一人でもやっていけると、分からせてやれ」
最後に腕に力を込めると、雲水は離れて背を向けた。
「雲水さーん。なんでー?」
何もわからない一休はその場でわめくだけだった。



大丈夫。
一人でもじっくり考えれば、なんとかなるだろう。たぶん。きっと…。
雲水は眉間に皺を寄せて考えこんでいた。
「金剛?」
しかし、今は授業中だった。
先生に呼ばれてしまった。
「はい?」
「何、真剣に考えこんでいる?そんなに難しいかったか?」
国語の時間だった。
「あ…いえ…」
「まあいい。せっかくだから、次の段落読んでくれ」
「はい」
雲水は立ち上がった。
「……すみません。どこからでしたっけ」
「…本当に大丈夫か?」
依存しているのは、自分の方かもしれない。




「一休」
パタパタと雲水は一休に近付いた。
「テスト返ってきたか?」
振り向いた一休の顔は暗かった。
「…俺の背番号と同じ点数でした」
「う…」
見事に赤点である。
「雲水さぁん」
一休が雲水の胸にすがってきた。
「何で教えてくれなかったんスか?バカな俺のこと、嫌になっちゃいました?」
「そんなことは…」
「じゃあ、何で?」
うーと一休は見上げてきた。
「……」
やっぱり一休にはまだ手助けが必要だ。そして何より自分にも一休は必要だった。
雲水は長く息をついた。
「よし。わかった」
「?」
「再テストはいつだ?」
「明日」
「勉強道具、持って来い。部屋でやるぞ」
一休の頭を撫でた。
「…はい!」
一休の顔はみるみる明るくなり、雲水をぎゅっと抱き締めてから踵を返した。
一休の背中を見て、雲水は決意した。
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