雲一小説

□欲
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昔から、阿含が持っているものを欲しがっても、何一つ手に入らなかった。
だから、いつからか欲しがること自体しなくなった。



阿含と一休が付き合い始めた。
最初そのとこを本人達から聞いたときは、言葉を失った。
「いいのか?」
後で一休に改めて聞いてみた。
「え?何がっスか?」
大きな目できょとんと見上げられた。
「その…阿含が相手で」
身内が言うのも何だが、阿含は素行が悪く、正直人が良いとは言えない。
「いいも何も…」
頬を染めた一休がうつむいて言った。
「好きっすから」




部活が無い日曜日。雲水は寮の部屋に一人で居た。
しかし、廊下からよく知っている足音がゆっくりと近づいてくるのに気付き、戸を開けた。
「あ。雲水さん…おはようございます」
一休の眼はほんのり赤くなっていて、あまり眠っていないことが読み取れた。
「今、帰ってきたのか?」
「はい」
くしくしと目をこすった。
昨夜、たまたま帰ってきていた阿含が、次の日に練習がないと知ると、一休を連れて外に出てしまったのだ。
雲水が止める暇も無かった。
「阿含は?」
「どっか行っちゃった」
そう言う一休の顔に寂しさが表れていた。その上、寝不足と疲労も重なっているその姿を、雲水はただ見ていることが出来なかった。
雲水は一休と目線を合わせた。
「少し、ここで眠っていくか?」
「いいんすか?」
とろんとした眼で一休は雲水を見た。
「ああ、構わない」
一休の部屋は此処ではなかったが、雲水は少しでも早く一休を休ませたかった。
一休は少し考えた後、首を縦に振った。
雲水は一休を部屋に入れて、戸を閉めた。
「今、布団敷くから」
「ありがとうございます」
一休の声は少し擦れていた。
雲水は一休の頭をそっと撫でた。見た目よりも柔らかい髪が指を撫でていくのは、気持ちよかった。
雲水が布団を敷くと、一休は上着を脱いでその中に入った。
雲水は傍らに膝を着いて、掛け布団をあげてやった。
ふと、一休が何かに気付いたように雲水を見上げた。
「これ、雲水さんの?」
布団をきゅっと握って言った。
「ああ、解るのか?」
「うん。においで解る」
それは、一休の知っている阿含のにおいがその布団からしなかったからなのか、一休が雲水のにおいも知っていたからなのかは、聞けなかった。
一休がすうっと瞼を閉じたから。
雲水は一休が脱いだ上着を畳み直して、枕元に置いてやった。
その時、一休の首筋の赤いアトが見えた。
見た瞬間は、カァッと顔が熱くなった。
いや、待て。昨夜阿含が一休を連れ出して帰ってこない時点で、単なる遊びに連れて行ったのではないことくらい予想はついていたはずだ。
そしてその予想が当たっていたというだけのこと。
高まった体温が一気に冷め、そのまま体が重くなった。
雲水は一休の寝顔を見ながら、心の中で問い掛けた。
『本当に、阿含でいいのか?』
そう思ったことは数えきれないほどあった。
けれど、口にはしなかった。一休の答えは決まり切っているからだ。
『はい』と。
阿含の自分勝手で振り回されているのに。
相変わらず、遊び好きで寂しい思いをさせられているというのに。
阿含のせいでこんなに疲れているのに関わらず、放って置かれたというのに。
雲水はもう一度、一休の髪を撫でた。
俺なら、いつでもそばに居るのに。
俺なら、寂しい思いもさせない。
俺なら、一休のことを一番に大切にするのに。
俺なら―――……。

ちょっと待て。

俺ならって、何だよ!?

雲水は一休から手を引いて、口元をおさえた。一休から目が離せない。

昔から、阿含が持っているものを欲しがっても、何一つ手に入らなかった。
だから、いつからか欲しがること自体しなくなったというのに!

どうしよう…。

静かに眠っている一休を見ていると、心臓が騒がしくなってきた。





後記。
なにこれ?(お前が言うな)
いや、あの。阿含は愛情表現が下手なだけだと思って下さい(フォロー?)

この後の展開は
1。雲水が無理矢理にでも一休を自分のものにする
2。一休が二股かける
3。いっそ3人対戦
4。雲水がナイアガラの滝壺に飛び込む

最終的には、雲水が一休から離れるため、長期海外留学とか考えた自分が恐い


実は最初、首筋のアトではくて、手首にアザとか考えてました
↑さすがに却下っすよ。

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