雲一小説 その2

□Fast LIP
2ページ/3ページ

翌日、二人は昨夜のことについては口に出さなかった。
けれど、雲水がふと一休を見ると、一瞬だけ目が合い、すぐにそらされるということが多かった。
お互い、やっぱり気になるのだろう。
そういうことにした。


その夜。
雲水はいつもより早く眠気を感じていた。
昨夜はいろいろと考えてしまい、寝つきが悪かったからだろう。
雲水は早々と布団を敷き始めた。

布団の中でうとうとと睡魔が体の自由を奪っていった。
この調子だと、あと数分で自分は眠りに落ちるな。
そんなことを、どこか遠くのことのように感じていた。
その時、ガタガタと襖からノックの音がした。
しかし、雲水は睡魔に縛られ返事が出来なかった。
やがて不信に思ったのか、そっと襖を開ける音がした。
「雲水さん?」
一休だ。
それはわかったが、やはりどうしても体を動かせなかった。
「寝てるんすか?」
襖が閉まる音がしたから、一休は戻ったのだろうと思った。
しかし、足音は近付いてきた。
そのまま一休が横に座ったのが、音と気配でわかった。
何か急ぎの用だったから、起こしにきたのだろうか?
それにしては、先ほどの足音は音を気遣っていた。
「起きないで、下さいよ?」
息に限りなく近い囁きだった。
ギシ…。と枕のすぐ横が重みできしむ音がした。
何かと思った瞬間。
ふにっとやわらかいものが雲水の唇を覆った。
それはしばらくそのままだったが、ゆっくりと離れた。
一休は息を止めていたのか、二・三度深く呼吸すると、すぐに立ち上がって部屋を出ていった。
閉められた襖の向こうの廊下に、早足で去っていく足音が聞こえた。
さすがに眠気の覚めた雲水は、目を開けた。
一休…。
雲水は思った以上に冷静なままでいる自分に驚いた。


次の日。
一休は自分から雲水に話しかけてはこなかった。
しかし、昨日以上に目が合った。
その後はやはりすぐにそらされたが、わたわたと手元にあるものをいじり、無関心をアピールしていた。
全く逆効果な気がするが。
そして自分も解っていた。
そんなに一休と目が合うということは、自分も彼を見ているということだ。
そして、相変わらず冷静な自分に疑問を持つほどだった。


その夜、雲水はアメフト雑誌を捲っていた。
ふと、カタンという音に目をやると、一休が襖を開けていた。
「どうした?」
「あ…いえ、あのっ…」
一休はみるみる顔を赤くした。
「な、なんでもないっす!」
そう言うと、襖を閉めないで走って行った。
雲水が廊下を見たときには、もうその姿はなかった。
襖を閉めて時計を見ると、間もなく就寝時間だった。
もしかして、また俺が寝ていると思ったのだろうか?
そしてまた、キスするつもりだったのだろうか?
そう考えても、嫌と感じない自分がいた。
こそこそしなくてもいいのに。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ