雲一小説 その2

□金剛先生
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別の日。
HRが終わって、あと少しで職員室に入るという時だった。
「金剛センセー」
女生徒が雲水を呼ぶときは、皆決まって同じ呼び方になる。半音上がって、明らかに注意を引こうとしている。
雲水は小さくため息をついてから、振り向いた。
二人の生徒は雲水を捕まえると、今日着ていたカーディガンが指定のものと違うから担任にとられたということを話してきた。
それを俺に言って、どうする?
そう言いたかったが、雲水はあいまいな返事を返すことしか出来なかった。
嫌なら何でも理由を作って逃げればいいものの、雲水は律儀に話を聞いてしまい、それが相手を調子つかせていることに気付いていなかった。
「せんせぇ―」
先ほどとは違う、半音下がった声が雲水を呼んできた。
一休がこちらに近付いてきた。
雲水は頬の筋肉が軽くなった。
二人の生徒に声をかけてから、一休に近付いた。
女生徒はつまんなさそうな顔をして、行った。
「大変っすね」
一休が雲水を見上げていた。
その眼はいつも通りで、ハンター色は微塵もなかった。
「これ」
一休はプリントの束を雲水に渡した。それは雲水が今日集めとけと言っていた課題だった。
「ああ、今日はお前が日直だったのか」
「はい」
「一休、さっきはありがとう」
おかげで話を終わらせることが出来た。
「別にそういうつもりは、なかったっすけど」
「まあ、あと数ヶ月しないうちに、彼女らも飽きてくるだろう」
そうなれば仕事も、学校に来ることも楽になる。
雲水は早くそうなるよう祈った。
「ま。しょうがないっしよ。この学校、他に若い先生もいないし」
そういう理由もあったのか…。
「それに、先生かっこいいっすもんね」
一休はいつも通り、媚びない表情で言った。
雲水はその瞬間、呼吸が止まった。
そしてじわじわと心臓を中心に体が痺れてきた。
血液が、どんどん熱くなってくる。
一休もかっこいいと思っていてくれてたんだ。
雲水が固まっているうちに、一休は教室に戻ってしまった。
雲水はもう、すぐに一休にまた会いたいと思った。

人を好きになる瞬間って、本当にあるんだな。
雲水は実感した。






あとがき

実は私の高校にこういうモテモテ先生が居たんです
常に女生徒といて、裏では静かに争奪戦があったとかなかったとか……

私はその先生の、イケメンアスリート系の爽やかさが軽くうざく、苦手でしたが(酷)
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