雲一小説 その2

□金剛先生
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「このクラスの副担任になりました。金剛雲水です。よろしく」
教壇に立った雲水を見て生徒達、特に女子の間で囁き声が広がった。
ああ、もしかして、ここでもか……。
雲水は心の中で肩を落とした。
これが大学を出てから初めて受け持つクラスなのだが、雲水は今までの経験から先のことを予想した。
自分で言うと引かれそうだが、俺の顔は異性受けがいいらしい。
よく似ているといわれる双子の弟を見ていて解る。弟、阿含は話上手で行動力もあるから、いつも隣に女性が絶えない。(早い話が、女好きでもある)
雲水は高校の時、部活動にかかりっきりだったため、女性との接し方が解らなかった。
けれど、第一印象のせいでその気がなくとも相手から話し掛けてくるのだ。大学でも、研修の時にきた高校でも。
特に男子校出身の雲水は、この女子高生の扱いが分からなく、授業に関係ないことで話し掛けられても、正直困った。
これから数ヶ月は、また大変だろうな…。
静かに覚悟した。


事実、この頃雲水は休み時間の三分の二は女生徒に捕まって過ごした。
雲水は見ていないドラマの話やら、○○先生は古くさいだの、どうでもいい話題をふっかけてきては、逃げる隙さえ与えないくらい話し続けるのだ。
速く職員室に戻りたい。
毎度そう思った。中には何かと理由をつけては職員室にまで押し掛けてくる生徒もいるが、職員室なら追い出す口実も作りやすかった。





そんな雲水が息抜ける時は、放課後だった。
「はぁ―――」
雲水は部室のベンチに横になった。
部員の生徒達はすでに帰っている。
雲水はアメフト部顧問だ。放課後になると真っ先に指導に当たる。そうすれば女生徒に捕まることもなかった。
「先生―」
視界にマネージャーの一休が現れた。
「何だ?」
「これ、一本余ったんで、飲んじゃってください」
ペットボトルを目の前に出してきた。底面がドアップだ。
雲水はそれを受け取ると、起き上がった。
一休は部室の掃除をしだした。
今の女子高生が、まるで型にはまって出来たかのように同じ姿ばかりの中、一休は違った。髪は染めないし、化粧もアクセサリーの類もしなかった。スカートも必要以上に短くしない。それどころか、中にスパッツをはいている。(そのせいか、平気で階段を飛び降りたりしている)
オシャレよりはスポーツタイプで、雲水に媚びない。
だから、一休の傍だけは雲水も気を許すことが出来た。

「一休、一人で大変じゃないか?」
「ん? マネージャーがっすか?」
「ああ」
アメフト部のマネージャーは今は一休一人だ。
「別に大丈夫っすよ。やる気のない邪魔な奴も居なくなったし」
4月にはマネージャー入部者も数人居たのだが、次々と辞めていった。
「彼女ら絶対、先生狙いで入っただけっすよ」
けれど、アメフト部に入ったところで、雲水とろくに話すことも出来ないくらいの忙しさに辞めていったのだ。アメフトは情報スポーツでもある。マネージャーの忙しさは運動部内の一二を争う。
なるほど、それなら、居なくなってくれたほうがいい。雲水も同意した。
「一休は、どうしてアメフト部に?」
雲水はペットボトルの蓋を開けた。
「アメフト、好きっすから。どっちかっていうと、俺自身がプレーしたかったくらいですよ」
二人は笑った。
確かに一休は運動神経がいい。選手になったらいいプレーをするだろうな。
一休はじっと雲水を見ていた。
「何だ?」
「先生って、普段生徒と話しているとき、そういう風にリラックスした笑い方しませんよね」
雲水は驚いた。
言われてから自覚した。
正直言って、自分に話し掛けてくる女生徒はハンターの眼をしている。
そんな彼女らの前では気が抜けないのだ。
男子生徒は男子生徒で、自分を快くは思っていない…。
一休は違った。
そういえば、一休は本当に他の子と違うな。
彼氏が居るようでは、なさそうだが…。
俺は一休の好みでは、ないんだな……。
別に世界中の女性に愛されたいとは思っていないが、そう思うとちょっと寂しかった。
雲水はペットボトルに口をつけた。
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