空中戦最強女戦士 セカンド

□挨拶 一休編
1ページ/2ページ

「雲水さん、この服変じゃないっすか?」
「うん。可愛い」
「そうじゃなくて!」
雲水と一休は、雲水の家に行くところだった。
雲水が一休を迎えに駅まで来てくれたのだ。

雲水の細川家への挨拶も済み、今度は一休が雲水の親に会いに行く番だった。
「ふわー、鬼ドキドキするっスよー」
一休は雲水の腕を掴んで止めた。
もう何度もこの行動を繰り返している。
「試合でもこんなに緊張したことないっすよー!」
「大丈夫。うちの親には事前に伝えといたから、顔を見せるだけのつもりでいい」
「でも、でも〜」
一休はまだ阿含以外の雲水の家族に会ったことが無かった。
雲水の母は、一休から見ればつまり姑。ドラマや漫画で嫁姑バトルをいろいろ見てきたため、一休は緊張していた。
「どうしましょう、俺家事も出来ないし、女らしくないし、絶対気に入られるはずないっスよー」
一休は天を仰いだ。
「心配することはない。二人とも、一休に会うのを楽しみにしている」
「楽しみって、逆にその言葉怖いっスよ!俺、何言われるんだろう…」
「一休、考えすぎだ。行くぞ」
珍しく、雲水が一休の腕をひいて歩いた。
「雲水さぁーん…」
一休の救いを求める声は空に溶けた。


ついに金剛家の前まで来てしまった。
「どうしましょう…なんて挨拶したらいいんすかね?」
「普通の挨拶でいい」
「普通ってなんすか?やっぱ季節の言葉から始めるとか?」
「一休、それは手紙の挨拶文のことだろ。落ち着け」
「あうぅ〜」
一休が落ち着く前に、雲水は玄関を開けた。
「ただいま」
一休も入ってドアを閉めた途端、奥から女性が来た。
彼女が雲水の母親だろう。
一休は姿勢を正した。

「その子が一休ちゃん?」
母親は一休をじっと見てきた。とりあえず、今のところあからさまな敵意は感じなかった。
「あの…は、はじめまして。細川…」
「かわいい〜!」
まだ上がってもいないのに、母親はスリッパのまま一休の背中が反るくらい抱き締めてきた。
「写メで見るより、ずっとかわいい!目おっきいー肌ピチピチー!」
一休の顔を撫でてきた。
「あ、あの…」
「雲水、よくこんなかわいい子連れて来たわね!上出来よ!」
雲水に親指を立てた。
「それより、一休を中に入れよう」
「そうね。一休ちゃん、お茶とコーヒーと紅茶とミルクティーとカフェオレとココア、どれがいい?」
「え…えっと、えっと…」
一休は口も頭も何もかも追い付けないでいた。
「母さん、普通の茶でいいよ。緑茶」
「あらそう? 一休ちゃん、お上がりなさい」
「は、はい」
母親に引かれるがまま一休は家に上がった。
「あれ?父さんは?」
「ダーメ。仕事抜け出せないって。夕方に帰ってくるわ」
「…そうか」
「一休ちゃん、こっちに座ってね」
「はい」
一休はソファーに案内された。
「雲水、お茶煎れてよ」
「はいはい」
「あ、雲水さん」
一休は立ち上がろうとした。
「いいんだ。座ってろ」
「…はい」
一休が座ると、雲水の母親は向かいに座った。
「でも嬉しいわー。私ね。ずっと娘が欲しかったの」
満面の笑顔で言ってきた。
「え?」
「わかってるだろうけど、うちって男兄弟だけじゃない」
「はい」
「でもね、私は女の子が欲しかったのよ。ちょっと悔しかったから、雲水にピンクのベビー服着せたことあるわよ。…写真見る?」
「え?」
「母さん!余計なことしないで!」
茶筒を開けていた雲水が慌てだした。
「あら、つまんない」
母親は座り直した。
「早くどっちかがお嫁さんもらわないかなって、雲水に言ったこともあったから、こんなに早く結婚を決めちゃったのかしらね」
「関係ないよ」
雲水は盆を持ってきた。
「ありがとうございます」
一休はまだけ親子のペースについていけないところがあった。
「ねえ結婚っていつあげれるの?あんたが18になったら?」
「最低でも卒業してからだよ」
「そうなの?」
寂しそうな顔をした。
「普通そうだよ」
一休は自分からは何も話すことが出来ず、ただ茶をすするだけだった。
雲水の母親がそれを見ていた。
「…一休ちゃん、晩ごはん食べていかない?」
「え、でも…」
「いいのよ。食べていきなさいよ」
「は、はい」
一休は思わず頷いた。
「じゃあ雲水、ちょっと買い物してきて」
「は?」
「お祝いよ。ビールと何かジュースでも買ってきなさいよ」
「でも一休が…」
雲水は一休を見た。
「大丈夫よ。行ってきなさい」
バックを取り出し、財布を雲水に渡した。
一休は行って欲しくないと思ったが、口に出すことが出来なかった。
雲水はそんな一休に気付いたらしい、近付いてきた。
「大丈夫。すぐ戻るから」
「でも…」
「なんか、一休と話したいらしい」
「うぅ…」
小さな声で、二人だけで話した。
「…大丈夫」
一休の肩を撫でた。
「雲水さん…」
一休は止めることが出来ず、雲水は行ってしまった。


「一休ちゃん、座りなさいよ」
「は、はい」
雲水を見送った後、再び二人はソファーに座った。
「…一休ちゃん、私のこと怖がってるわね」
「そそんなことは…」
一瞬ギクリとしたが、一休は 否定を口にした。
「いいのよ。無理もないわ。女にとって義母はやっかいな存在だもの」
「いえ、そんなことは!」
「私だって、昔はここに嫁に来た身、解るわよ」
彼女の眼は大人だった。
「……すみません」
その眼に見透かされた気がして、一休は頭を下げた。
「いいのよ。雲水から聞いたわ。本当のあなたは、自分の考えもはっきりと言う、芯の強い女の子だって。だから今日緊張しているのが解ったわ」
「……」
何も言えなかった。
「本当に怖がらなくてもいいわ。さっき言った通り、私は娘が欲しかったのよ。だから一休ちゃんが来てくれて、嬉しくてたまらないのよ」
「でも…」
「雲水と阿含が産まれたのは、それはそれですごく嬉しかったわ。でもね、私一緒に料理したり、服とか買い物したりすることに憧れていたの。一休ちゃんとそういうことしたいのよ」
「でも…」
「あら、迷惑だった?」
しどろもどろな一休に母親は首を傾げた。
「いえ、でも俺、料理とかしたことないし…」
「じゃあ、私が教えるわ。その方が面白そう」
彼女は笑って返した。
「そ、それに服もあまり女の子らしくないのばっか着てるし…」
「それはそれでかわいいじゃない。大丈夫、ロリ服とか着せるつもりはないから」
「あの…でも」
「…他に心配なところは?」
優しく言ってくれた。
「俺…いや、アタシ男子校に入るような変わった女ですから」
「でも、それで雲水と会えたんでしょ?」
「そうですが…」
一休はまだ落ち着けなかった。
自分が将来完璧な嫁になれるとは思えなかったため、絶対嫌われると思っているのだ。
「…もしどうしてもっていうなら、雲水を婿に出してもいいけど?」
「いえ!そこまでしなくてもいいっス!」
首を振りまくった。
そんなことをしたら、雲水さんがあのシスコン兄貴達に虐められる!
「じゃあ一緒に暮らしましょうよ」
「…でも」
「嫌なら、雲水と二人で暮らしてもいいし。…出来れば一緒に住みたいけど」
「………」
「二人の結婚に反対してるわけじゃないんだし。一休ちゃん、お互い気楽に行きましょうよ」
雲水の母親は頬杖を付いて微笑んできた。
「………」
一休は考えた。
確かに結婚には反対されていない。例えこの人と仲良くなれなくとも、やっぱり雲水さんとは一緒に居たい。
ううん。きっと仲悪くなっても、雲水さんと一緒なら大丈夫。
それに、まだ分かりもしない先のことで今からうじうじしてるなんて、もったいない。
やっといつも通りの考え方が出来てきた。
雲水が一休の家に挨拶しに来た時があまりにもバタバタしていたので、ちょっと重くとらえ過ぎていたのかもしれない。
「…はい」
一休は初めて、雲水の母親と目を合わせた。
「よろしくね。一休ちゃん」
彼女も一休の目を受け止めて、微笑んだ。
「はい。よろしくお願いします。…えっと、金剛さん?」
呼び名に戸惑った。
「貴方もいずれその名字になるのよ」
カラカラと笑われてしまった。
「お義母さんと呼んで」
「え…えっと」
「といきなり言われても、無理よね。他の人をお母さんって呼ぶなんて」
「…スミマセン」
「いいのよ。ゆっくりで」
さてと、と言うように立ち上がった。
「今夜はちらし寿司にするつもりなの。よかったら手伝ってくれる?」
「あっはい!」
一休も立ち上がった。


「ただいま」
雲水が重そうな袋を下げて、帰ってきた。
「一休ちゃん、迎えてあげて」
「はい」
ご飯を混ぜていた一休はやっと雲水と会えると、足取り軽く玄関に向かった。
「雲水さん、おかえりなさい」
「………」
雲水は一休をじっと見ると、頭を撫でてきた。
「雲水さん?」
「俺の家で一休がこんな風に出迎えてくれるなんて……嬉しくて」
「…結婚したら、毎日っすよ」
「そうなんだよな…」
はうと幸せそうなため息をついた。
「………」
一瞬だけ、一休は大丈夫かと考えかけてしまった。
「雲水さん、ビール冷蔵庫に入れないと」
「ああ、そうだな」
一休が手を出したが、雲水は自分で持っていくと言った。
「雲水さんのお母さん、料理教えるの上手っスね」
「ああ、俺も母さんに習ったから」
「……雲水さんも料理出来るんすか?」
「簡単なものならな」
「……」
一休は自宅でも料理の練習をしようと決意した。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ