空中戦最強女戦士 セカンド

□挨拶 雲水編
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長期休暇ということで、一休も実家に戻った。
庭に入ると、さっそく飼い犬が出迎えてくれた。
長い間会っていなかったのに、大興奮してくれて嬉しかった。
そんなペットが甘えた声を出していると、玄関が開き中から飛び出してきたものが一休にのしかかった。
「おかえり、一休ぅ〜!」
兄の華叟(かそう)。大学生である。
この兄にも今しっぽがあれは、相当勢いよく振り回しているだろう。
「華叟兄(かそにい)…重い」
一休はとり憑いたようにくっついてきた兄を引き連れながら、家に入った。
「おかえり、一休」
母が顔を出してきた。
「ただいま」
一休達兄妹のホクロは、この 母からの遺伝だ。
「晩御飯、何かリクエストある?」
「えっと…すき焼き?」
「OK」
母が戻ると、一休は抱きついていた兄を引き離した。
「うわーん、一休ぅ」
「妹にベタベタするなよ。このシスコ…」
「一休!!」
今度は外から飛び込んできたものが、一休にのしかかった。
「おかえり、そしてただいま」
「関兄、苦し…」
華叟の上の兄、関山(かんざん)は力一杯妹を抱き締めていた。
「関山てめえ!!」
続いて外から飛び込んできた来たもう一人が、関山に膝蹴りを食らわし一休から離れさせた。
細川家長男の大燈(だいとう)である。
大燈も関山を蹴飛ばした後、一休を抱き締めた。
「会いたかった。我が妹…!」
「はいはい」
キラキラと感動の再会をしている(つもりの)兄の腕の中で、一休は冷めていた。
一休はこの三人の兄に溺愛されて育った。おかげで三人とも今まで彼女がいたことがない。
一休はこの三人を嫌ってはいないし、一応尊敬もしている。
しかしこの異常な兄妹愛はいただけなかった。
「一休」
大燈が体を少しだけ離し、顔を覗き込んできた。
「大丈夫か?神龍寺の奴らに何もされていないか?」
他の二人もそうだったと思い出したように、一休の傍に近付いてきた。
「そうだ、何もされていないか?」
「教師どもにもだ」
「お前は可愛いんだからな」
「んなわけないって」
一休は呆れた。
兄達のシスコンは、ナルシストのためだと思っている。
俺ら兄妹は多かれ少なかれナルシストが入っている。だから、妹とはいえ自分な似た異性を異常に気に入ってしまうのだろうと。
「兄ちゃん達が心配するようなことはないよ」
「心配するようなことはないか、何かはあったのか?」
「誰にだ!?そんな奴、俺らで五体不満足にしてやる!」
三人とも元運動部エースである。
「何もないから。ちょっと退いて」
三方囲まれた一休は、進むに進めずにいた。
「母さんに話があるの」
「なんだよ一休〜」
「お兄ちゃん達と話そうぜー」
「邪魔」
一休は兄達を肘で押し退け、なんとか台所に向かった。
「一休ぅ〜」
ついてくる兄達の鼻先で、戸を閉めた。
「あー、疲れる」
一休のその戸に寄りかかった。
「本当、見てるこっちも疲れるわ」
母親が笑った。
「そう思うなら、止めてよ…」
「疲れるけど、面白いのも確かなんだもの」
「………」
こういう楽観的なところは、自分も受け継いでいるのかもしれない…。
「…あのね。…お母さん」
一休の話しかけが改まったものだと感じたのか、母は一休に体を向けた。
「お父さん、今日何時ごろ帰ってくる?」
「そうね。何も連絡はないから、夕飯までには帰ってくると思うけど?」
「話が…あるの」


外も暗くなり始めた頃、再び玄関が開いた。
リビングにいた一休は、それにいち早く気付き、華叟を飛び越えて玄関に向かった。
「お父さん」
一休の父親は、大学の准教授をしている。その頭脳を受け繋がらなかったのが何とも惜しい。
「おかえり」
一休は自ら父親に抱きついた。
「一休も、おかえり」
父は、一休の頭を撫でた。
兄達と違って口煩くない父を、一休は強く慕っていた。


夜。
一休は雲水に電話をした。
「雲水さん、今大丈夫ですか?」
『ああ。…話してくれたか?』
「はい。急ですけど、明日でも大丈夫ですか?」
『ああ、いいぞ』
「…ねえ、雲水さん。こんなに急がなくても、卒業してからでも良かったんじゃないですか?」
この前、雲水は一休にプロポーズした。
一休もそれを承諾したら、雲水はちゃんと両親に挨拶するべきだと言ってきた。
『いや、決心したからにはちゃんと伝えた方がいい』
「でも…」
『そちらの親御さんだって、娘がどんな奴と付き合っているのか気になるだろうし』
「そうかも、でも……」
『一休、頼む』
「……わかりました。でも、親より兄達の方がやっかいかもしれません」
『そうか』
それだけだったが、雲水の決意の強さが伝わってきた。
「…雲水さん」
『ん?』
「ううん。何でもないっす。…ちょっと会いたくなっただけです」
『明日、行くから』
「うん」
電話を切った後、すごく恥ずかしかったが、嬉しくもあった。


雲水に会ってほしいというのは父には伝えたが、ややこしくならないよう兄達には何も言わなかった。そのためか今家にいるのは、次男の関山だけだった。
兄に紹介したい人がいるなんて言ったら、玄関に何か仕掛けそうだ。
何も伝えていないため、何の問題もなく雲水はインターホンを押すことが出来た。
ふわふわした気持ちで待っていた一休は真っ先に出迎えた。
出迎えた雲水は神龍寺の制服で来ていた。
「なんで制服?」
一休が首を傾げていると、雲水が答えた。
「これが、一番の礼服と思ってな」
雲水の腕には菓子折りだろう包みがあった。
「いらっしゃい」
一休の母が続いて出迎えてくれた。
「おじゃまします」
頭を下げると、雲水は手土産を渡した。
「あら、ありがとう」
受けとると、雲水を上げて奥の和室へ案内しはじめた。
三人で歩いているとき、トイレの戸が開いた。
関山だった。
「母さん、紙なくなったよ、新しいのはー?」
「階段の下にあるわよ」
やっと関山が雲水に気付いた。
雲水は目が合うと、頭を下げた。
「誰?」
一休は面倒を避けたいため、雲水の背中を押した。
「雲水さん、早く」
「え? ちょっ、一休?」
不信に思った雲水だったが、促されるまま足を進めた。
「待て!その制服、神龍寺だよな!なんで神龍寺の奴が家に!?」
「兄ちゃんには関係ないよ!」
「んなわけないだろ!おい、まさか一休!?」
「母さん、お茶よろしく!」
さっさと雲水を和室に入れると、後ろ手で襖を閉めた。
向こうで兄が興奮ぎみに母に何かを問いかけるのが、なんとなく聞こえた。
「関山に見付かったか?」
父がわかっているという表情でいた。
「うん」
とにかく雲水を父の向かいの座布団に座らせ、その隣に自分も座った。
雲水は礼儀正しく挨拶をした。
「金剛雲水です」
「君も、アメフト部だってね?」
「はい。QBをやってます」
「ほう」
昨夜、雲水と会ってほしいと言ったときもだが、父はこれといって怒ったり反対したりはしなかった。
父は慎重派だ。じっくり雲水を見定めているのだろう。
ほどなく母が茶を載せた盆を持って入ってきた。

母も座ると、雲水は再び改まった。
「本日挨拶に来たのには、理由があります」
空気を読み、他の三人も改まった。
雲水は座ったまま、頭を下げた。
「一休さんとの、結婚を前提としたお付き合いをお許しください」
「ダメだ!!」
その言葉を父の口からではなく、横から飛ばされ、一休は座布団の上で飛び上がった。
関山が襖を開けていた。
「やっぱりそういう男だったか…!」
関山の後ろには、息の荒い大燈と華叟もいた。
おそらく関山から連絡がいき、大急ぎで帰ってきたのだろう。
「あ!この坊主!!」
華叟が雲水を指差した。
実は華叟だけは一度雲水と会ったことがある。
「あん時の…。この野郎、一休に手出しやがったな!!」
「やめて華叟兄!」
華叟が雲水に掴みかからん勢いだったので、一休が腕を広げて遮った。
「一休、そいつから離れろ!」
大燈が一休を抱き寄せ、雲水から離れさせた。
「さっきの聞かせてもらったが、高校生で結婚前提ってバカじゃないか?」
「雲水さんはバカじゃない!」
「一休の可愛さにあてられ、先が見えなくなっているバカだよ!」
「バカじゃないってば!」
「やっぱり、男子校になんか行かせるんじゃなかった。一番悪い虫が付きやがって」
「兄ちゃん達、雲水さんのこと何も知らないのに勝手なこと言わないで!!」
「俺のかわいい一休に手を出した時点で、こいつは最低なんだよ!」
「おい大兄、『俺の一休』じゃないだろ!一休は俺のだ!」
「いや違う!一休は俺のだ!」
「アホなこと言ってんじゃねーよ、このくそ兄貴共!」
「「「お兄ちゃんと呼びなさい!」」」
「静かにしなさい!!」
父親の一喝で、兄妹達は動かなくなった。
「…雲水君、ご覧の通りうちの者達が話なんかできる状態じゃない。そうそうで悪いのだが、明日出直してくれないか?」
父はため息混じりに言った。
「はい」
雲水は立ち上がった。
「雲水さん」
兄の腕を引っ掻きながらはがすと、一休は雲水に駆け寄った。
「…ごめんなさい」
「いいんだ。急ぐことはない」
いつもの癖で、一休の頭に手を伸ばしかけたが、兄達の目が光ったので止めておいた。
「では、また明日」
最後まで礼儀正しく、雲水は帰っていった。


「もう!兄貴達の鬼バカ!!」
リビングに集まった兄達に、一休は怒鳴った。
「バカはあいつの方だ」
兄達も揃って不機嫌だった。
「あんな奴、一休の相手には役不足だ」
「役不足って何さ!雲水さんのこと、何もしらないくせに!」
「あいつがどれほどだって言うんだ?」
「間違いなく、兄ちゃん達より頭も性格も人望も上っすよ!」
「そうは見えなかったがな」
三人に口々に攻められ、一休は沸点に近づいていた。
「兄ちゃん達なんか…どんな男連れてきても、そうやって反対するんでしょ!」
「当たり前だ。お前に男なんて…」
「ああ〜っ考えただけで殺したくなる!」
「バッカじゃないの!?」
一休はリビングから出ようとした。
「とにかく、明日もっと雲水さんのこと見てから判断してよね!」
兄達はハンと鼻をならした。
リビングから出ると、母がいた。
「お母さんは、雲水くんのこと気に入ってるわよ」
「母さん…」
「あんたにしては、いい男捕まえたわね」
「捕まえたって……」
一休は肩を叩かれた。
「ねえ……お父さんは?」
「部屋よ」
一休はその方向に目を向けた。
「今日はやめときなさい」
「え?」
話をしようかと思っていたことが見透かされ、一休は驚いた。
「お父さんも、いろいろ考えてると思うから」
「……うん」
歩き始めた母の背中についていった。
「ねえ、やっぱり今から結婚を考えるとか、馬鹿げてると思う?」
「…いいえ」
振り返った母は、少し微笑んでいた。
「本当にそれだけ真剣なら、頭ごなしに悪いとは思わないわ」
「…ありがとう」
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