そのに

□PRESENT
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「お兄ちゃんお兄ちゃん」
雲水は言葉に表せないくらい、驚いた。
阿含が、自分のことを『お兄ちゃん』と呼んだ!?
「何だ何だ!!お前本当に阿含か!?頭打ったか!?病気になったか!?宇宙人に拐われたのか!?」
雲水こそガラにもなくマンガのように、阿含からズササササと離れた。
「聞きたいことがあるだけだ」
雲水の態度に気を悪くしたのか、いつもの阿含に戻っていた。
「あ、ああ。何だ?」
雲水は胸をおさえた。
「お前さ、一休に誕生日プレゼントとか、何やると喜んでる?」
「何でそんなことを聞く?」
「さっきゴクウによ―」
阿含は語り出した。


――――「ゴクウ!」
久しぶりの阿含の呼び掛けに、ゴクウは振り向いた。
そしたら肩にふわりと柔らかいものが被せられた。
真っ白な毛皮のコートだった。
「なんだこれ?」
「思った通りだ!可愛いな〜!」
阿含はコートごとゴクウを抱き締めた。
「質問に答えろ」
阿含の脇腹をつねった。
「いでっ…それ、お前にやるよ」
「なんだいきなり」
「店で見て、絶対お前に似合うと思ってよ」
ゴクウはコートの毛並みを撫でた。
今まで触ったことのない柔らかさだった。素人目にも高級品と分かる。
「…これ、いくらしたんだ?」
「15万」
とてもじゃないが、普通の高校生が簡単に買える額ではない。
「またどっかの野郎の財布から盗ったのか?」
「いいや。女に買わせた」
それを聞くなり、ゴクウはコートを掴んで阿含に叩きつけた。
「んなもん、いらん!!」
そのままゴクウは、足音荒く、阿含を残して行ってしまったのだった。


「――ってことがあってよ」
「それでか、そこに毛皮コートがあるのは」
クリーンオフされた毛皮コートは、無造作に部屋に投げ出されていた。
雲水はそれを手にとった。
「……これ、女物だろ?」
「だからゴクウのサイズにピッタリなんだよ。あ、だからゴクウの奴、怒ったのか?」
「一番はそこじゃないだろ」
「じゃあなんだよ。せっかく可愛いと思って、女に買わせたのに」
「問題はそこだろ」
「は?」
阿含が首を捻ってると、襖が開いた。
「雲水さーんこんばんはー!」
一休が遊びにきた。
「あ。なんすかそれ?毛皮?」
一休は雲水の持っているコートを触った。
「うあっ!ふっわふわ!ちょっと着てみていいっスか?」
初めて見る高級コートに一休の好奇心が刺激されたそうだ。
「かっる!あったかいのに、鬼軽いっすよこれ!!」
もこもこと着こんだ一休を、雲水は凝視していた。
「……確かに、可愛いな」
雲水はコートごと一休を抱き締めた。やわらかい毛皮を着た一休は、まるで産毛の子猫のようだった。
そう思われていることを知らない一休は、ただ雲水に抱き締められたことが嬉しくて、腕を回し返していた。
「…おい、バカップル!」
阿含に声をかけられ、二人は自分達の世界から抜け出した。
「ああ、ごめん。阿含」
「……ゴクウは可愛く見られたのが、嫌だったのか?」
「それもあるだろうが」
「何の話っすか?」
一休が二人を見上げていた。
そこで一休にも、阿含とゴクウの話をした。
「…それは確かに嫌っすよ」
「だから、なんでだよ?」
「他の女に買わせたプレゼントなんて、嫌に決まってるっスよ」
「そうなのか?」
金剛阿含、どうやらそういう感覚が鈍いらしい。
「ちなみに、雲水は一休のプレゼントには何やったんだ?」
「イニシャル入りお揃い手袋」
これだ、と雲水が出してくれた。見ると市販の青い手袋の手首のところに、U.Kと縫われていた。
おそらく縫ったのは雲水だ。
「次の冬も使いましょうねー」
「もちろんだ」
阿含は兄カップルに呆れた。
「……俺はゴクウに何やればいいんだよ?」
「そうだな」
「何かゴクウの欲しいもんとか知らねーか?」
「あ。欲しいかどうかとはちょっと違うんすけど」
一休が手を挙げた。
「何だ?いや、その前にコート脱げ」
「ゴクウさん、この前CM見てウェディングケーキ丸ごと食べてみたいって言ってましたよ」
一休は毛皮を肩から降ろしながら、話した。
「ウェディングケーキってあのケーキか?」
阿含は城をイメージした型をジェスチャーした。
「はい」
「あれは、作りもんだろうが」
「そこを、あえて本物にしたいって」
「食えるか、んなもん!」
「あれ?阿含さん、知らないんスか?」
「あ?」
「ゴクウさん、間食系だと結構大食いっすよ」
「…………は?」
「食事とかは普通っすけど、おやつとかは有れば有るだけ食べますよ。多分、トータルで見ればハッカイさんと同じくらいはあると思いますよ」
「甘党なんだな」
「そうなんスよ」
「甘党ですませれるレベルじゃないだろ」
阿含が突っ込んだ。
「それなら、阿含」
雲水が何かを思い付いたようだった。
「お前がそのケーキを作ってやったら、どうだ?」
「……はあ?」
「あ、それいいっすね!」
「だろ?」
「いやいや、ちょっと待て。お前らの基準押し付けんな!」
「しかし、他にプレゼントといっても、金がかかるだろ?お前が持っているお金、いつもお前のじゃないだろ?」
「そうだけどよ…」
「ゴクウは、そんな金で買ったプレゼントなんか欲しくないと思うぞ」
「………」
「材料費くらいなら、見逃してくれると思うぞ」
「阿含さんの手作りなら」
名案と言わんばかりに、雲水と一休は顔を輝かせていた。
アホかと思いながらも、オシドリ先輩カップルのいうことを頭から否定することが出来なかった。
そもそも、男同士のカップル自体が、今の日本ではまだまだ常識はずれだ。
喜ばれるプレゼントも、常識はずれのものかもしれない。
「とりあえず、このコートは買ってくれた女性に、返しとけよ」
雲水は阿含にコートを渡した。





数日後。ゴクウは阿含に学食の調理場に呼ばれてた。
行ってみると、入口で阿含が待っていた。
「何、変なとこに呼び出してんだよ」
「リベンジだ」
「は?」
「この前のコートは返されたから、今度は別のプレゼントを用意してやったぞ」
「態度でけえな」
別に頼んでいないだろ。と言いたかったが、止めておいた。
「で、何用意したんだよ?調理場ってことは、フレンチフルコースでも作ったのか?」
「…ちょっと違うな」
阿含はゴクウを中に入るよう促した。
阿含が作ったものは大きかっので、、すぐにゴクウの目に飛び込んできた。
「………」
ゴクウはそれぞれ段にのせられた、三段重ねのケーキを見上げた。
「これか?これなのか?」
阿含に問いかける目は、少し輝いていた。
「ああ」
「これ、全部食っていいのか?」
ゴクウが甘いもの好きというのは、本当だったらしい。
ゴクウの目はいままで阿含に向けられたことがないくらい、輝いてきていた。
「どーぞ」
阿含が言うと、ゴクウはケーキに飛び付いた。
フォークで一口食べた途端、顔がとろけた。
「うまっ!…すっげえうまっ!!」
次からゴクウの手は止まらなかった。
「すげえな。どこのパティシエに作らせたんだよ」
「俺が作ったんだよ」
「うそっ!!」
「嘘じゃねーよ。愛情たっぷり込めて作ってやったんだぜ」
「そこはどうでもいい」
「おい」
本当、俺達の関係っていろんな意味でドライだよな。
阿含は実感した。


一時間もしたころ、ケーキもあらかた無くなっていた。
直径30cmはある三段ケーキをゴクウは食べきった。
一休の言っていたことは、本当だったらしい。
今日中には完食は無理だろうと、冷蔵庫のスペースを開けといたことを、阿含は黙っておいた。
「食ったぁ―」
ゴクウは幸せそうな顔をしていた。
阿含は隣に座りながら、そんなゴクウを眺めていた。
「……今のお前喰ったら、甘そうだな」
「アホかてめぇ」
ゴクウは阿含の椅子を蹴った。
「…………けど」
阿含と目は合わせなかったが、
「…ありがとな」
その瞳は優しげだった。 阿含は椅子を近付かせ、ゴクウを抱き締めた。
そして、ペロリとゴクウの唇を舐めた。
「…甘え」
「いきなりするなっ」
けれどゴクウは珍しく、反発もせず、それどころか阿含に寄り掛かりさえした。
プレゼントの効果はあったようだ。



「来年の誕生日には、五段ケーキ作ってくれ」
「は?」




後記。
るびひめ様のリクエスト、ゴクウにプレゼントする阿含でした
プレゼントを何にしようかいろいろ考えましたが、阿ゴクはどちらかというと、形残るプレゼントじゃない方がいいなと思ってたのもあり、ちょうどこれを書き始めたのがバレンタインだったので、センス問われる前にケーキにしてみました
ゴクウちゃんが大食いってのは、書いてて急遽作った設定です。スミマセン

こんなあり得ない阿含でよろしければ、どうぞ……

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