そのいち

□敗北は失うだけじゃない
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 泥門高校の門の向かいに、一人の少年がいた。
 山吹色の道着を来たその少年の格好は人目を引いたが、本人は慣れた様子で平然とガードレールに腰掛けていた。
 誰かを待っているのは一目瞭然だ。
 女生徒が来るたび、あらぬ方向に視線を泳がせていたが・・・。

 少年の表情が変わった。そして、腕を大きく振って目当ての生徒の気を引こうとした。
「モン太――!」
 セナとしゃべりながら、モン太は門へ向かっていたが、自分を呼ぶ声に反応して視線を移した。
「一休先輩!?」

 セナは母親に頼まれた買い物があるということと、一休はモン太に用があるだろうからと、先に行ってしまった。
「アイシールドって、フィールドじゃないと異様に小さく見えるな」
 セナの後姿がだいぶ遠ざかると一休がつぶやいた。
「よく言われるみたいっす。テレビと違う、ユニフォーム姿と違うとか」
 それはいまだにノートルダム大のイメージの名残かもしれないとモン太はそう思った。
「ま、実際は俺と同じっすから」
「そうなんだ」
 一休はモン太の頭を見て目測した。
「まあ・・・俺も最初はお前を小さく見てたしな・・・」
 『小さく見えた』と一文字異なるこのニュアンスの違いにモン太は気付いていなかった。
「今は違うけど」
「え? 俺、でかくなりました?」
「いや、でかくなったってゆーか・・・濃くなった」
 存在が。
「え!?」
 またもや一休の言葉の意味を取り違えたモン太が、顔に手をやった。
 確かに決して貧相な顔つきとは思っていないが・・・。

 「でも、何でここに来たんすか?」
 二人で歩いていて、ふと今更ながら疑問に思ったことをモン太が訊いた。
 しかし、一休は目に付いた公園に興味を示し、モン太の質問に答える前にもう人気の無いその公園に入って行った。
 なんとなくだが、モン太も付いていった。
 一休はブランコに足を乗せ、巧みに体のバランスをコントロールすると、ブランコを揺らし始めた。
 モン太はそれを傍らで見ていた。
「一休先輩」
「ん?」
 一休が鎖を軸に体を回し、モン太と向き合うようにした。
「何で来たんすか? ・・・大会終わってから、もう部活ないんすか?」
「失礼な」
 一休の唇がひん曲がった。
「おかげ様で試合は無いけど、その分今まで以上に練習してます」
「・・・知ってますよ」
 王城で雲水に会ったときに、一休が王城への偵察を断ってまで練習しているということを聞いていた。
 だからこそ、今一休が練習の時間を割いてまで、ここ。まして県外である東京まで来たのか疑問に思ったのだ。
「モン太さぁー、春は試合出てないだろ?」
 またゆるくブランコをこぎながら、一休はモン太に話しかけてきた。
 いくら地区が違うといえど、自分とあれほど戦えた人物なら、チェックを入れているはずだ。雲水たちの偵察により、春大会での泥門のパス成功率は聞いていた。
「はい・・・・つーか、アメフト始めたの春大会のあとっすから」
「は・・・?」
 思わぬ返答に、一休の表情が驚きと疑いに変わった。
「転部したんすよ」
「・・・マジ?」
「はい」
 一休は頭を垂れた。
 関東最強といわれていたのに、アメフトを初めて一年たっていない奴に負けたのかのと思うと気も落ちる。
「一休先輩?」
 一休のうなだれにモン太も気を遣った。
「・・・なんか俺、鬼惨めじゃん」
 そのままずるずるとブランコに座った。
「俺、中学のときから結構注目されてたんだぜ・・・」
 自慢話ではないが、どうしてもそのころを思い出して比べてしまう。
「なのに、新米に越されたのかよ」
「・・・新米なのは、アメフトのみっすよ」
 一休の言葉に、モン太は訂正を入れた。
「?」
 一休は顔を上げて、モン太を見た。
「キャッチにかけては、小学のときから命かけてるっすから」
 見上げた先のモン太の眼は、力強く光っていた。
 この眼なら知っている。たった一つの目標に向かって、自分の極限にまで走り続けている眼。そんな血の滲む努力をしている人なら、一休の身近にもいる。
 そうか。やっぱり、そうだったんだ。
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