そのいち

□帰り道の温もり
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 親戚の結婚式があった。
 とは言っても、従兄弟とかそういう近い関係のものではない。家が近かったため、お世話になったし、お世話したしということで、披露宴に呼ばれたのだ。
 そのため、今日は部活動を休み、プチ里帰りをした。披露宴もめでたく終わり、誘われた二次会のつまみを食べ、今こうして神龍寺に帰るため、バスに乗っている。一泊して帰っても良かったのだが、そうすると授業の前に朝からあの階段を上ることになる。
 そんなのごめんだと、最終のバスで寮に戻ることにした。
 誰も居ない、薄暗いバスの中、一番後ろの窓側の席に座って過ぎ去っていく町の明かりをぼんやりとゴクウは見ていた。

 アナウンスの数分後、バスが止まった。
 開かれたドアからのっそりと乗ってきた人物を無意識に確認してしまった。
 あ・・・。
 阿含。
 目、合っちゃったよ。
 ゴクウは思わず視線をそらし、再び窓を見た。しかし、意識の先は、外の風景ではなく窓ガラスに映った阿含だった。暗いのでガラスは半分鏡の役割もしていた。
 できれば前のほう、というか離れたところに座ってくれ。というか話しかけてこなければそれでいい。話すこと無いし。
 ・・・・こっち来た!?
 阿含は迷うそぶりも見せずに、通路を闊歩し、ゴクウの隣に腰を下ろした。
 バスが走り出した。
 ゴクウは動かないようにした。意識の先もガラスに映った二人の姿でなく、その先に移そうとした・・・ら。
 頭をつかまれた。
「珍しいな。こんな時間にお前が外に居るの」
 ぐりっと阿含のほうを向かされた。
「家に帰ってたんだよ」
 視線は合わせなかった。
「何? 『実家に帰らせてもらいます』?」
「何処の嫁だ?」
「子供は生まれ育った地で産みたい」
「妊婦か」
 某お笑い芸人のように頭ははたけなかった。
「結婚式があったんだよ」
そう言って頭の手を下ろさせた。
「おめでとう」
「俺じゃねーからな・・・って拍手すんな!」
 こいつボケだったのか?
 そう思った直後に気付いた。こいつ飲んでる。
 だから俺に対しても陽気だったのか。
 目をそらしたら、また頭をつかまれた。
 ぐりぐり。
「ちょっ・・・なんだよ? 酔っ払い」
「酔ってねーよ」
「うそつけ。においすげーぞ」
「あ゛ー? こんくらいで酔うわけねーじゃん」
「こら。高校生」
「何、固い事言ってんだよ。お前だって酒くらい飲むだろ?」
「飲めるけど、そんなにおいバレバレで学校に帰んねーよ」
 そんなことして何も言われないのはお前だけだ。だからゴクウは二次会でも遠慮した。
「てか、手離せよ!」
 自分がチビだということを主張されているようでイラだつ。
 そしたら、意外とその手はすぐ離れた。
 ゴクウは疲れたと体で表現するかのようにイスに深く座りなおした。
「夜遅くに高校生が二人、バスに乗っている・・・」
 阿含がつぶやいた。
「これで事故って俺が死んだら、お前が甲子園まで連れてく風になってくれ」
「すいません。俺、アメフト少年なんで・・・」
「いや、甲子園ボウル」
 大学決勝!?
 こいつ大丈夫か?と振り向こうとしたら、肩に阿含の頭が乗ってきた。
「・・・おい」
 反応なし。
「お、い!」
 ちょっと肩を揺らした。変わりない。
 寝るのかよ。
 ゴクウはあきらめ、また外を見た。
「・・・死ぬとか、言うんじゃねーよ」
 つぶやくとも言えない声を口の中で転がした。
「何? 俺が死んだら、寂しい?」
 声の振動が肩から伝わった。
「起きてたのかよ」
「まだ、な」
 そのつもりではいたらしい。
「寂しー?」
もう一度聞いてきた。
「寝てろ」
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