book

□ビー玉
1ページ/2ページ

「空が綺麗だなァ…」

 今日はいつになく綺麗な青だった
 雲一つも無く陽射しが直に当たる
 河原で寝転がって居れば
 草の匂いが体を包んで眠気を誘う.

 「こんなに暖かいと寝ちまいそうだ…」

 陽射しから眼を逸らそうとした時だった

 「暖かく無くても君は寝るでしょーが」

 やる気の無い声と人影が落ちてくれば 
 軽く眼を見開いて体を少しずらし
 頭上を見上げる

 「…旦那じゃ無ェですか」

 光に反射して銀色が透明に見えた.

 「なーにまたサボり?良いねぇサボっても金が貰えるなんて」

 いつもの死んだ眼が自分を見下ろしてくる

 「違いやすよ,此れは休憩でさァ」

 上半身を起こせば伸びをしてみると
 バキバキと肩が鳴り耳元で響く.

 「ふーん,俺が見掛ける時って大抵御前休憩中だよな.何そんなに休憩取れる仕事なの?楽で良いねぇ全く」

 と文句を言いつつも隣に腰掛ける
 
 「…旦那がそんなの飲んでるの珍しいですねィ」

 甘党な旦那は大抵苺牛乳を愛飲していた
 でも今日は瓶の青い
 ラムネを指先だけで持っていた.

 「あー此れ?貰ったんだよ.商店街歩いてたら優しいおばあちゃんに」
 
 少し瓶を掲げる旦那は
 何処か嬉しそうに口元を緩ませた

 「へェ…優しい人も居るんですねィ,こんなマダオに恵んでやるなんて」

 嬉しげな相手を
 少しからかってみれば

 「五月蝿ぇな!銀さんの素行が良いから貰えたんですぅ.羨ましいかコノヤロー」

 と子供の様に返してくる
 可愛いなと思えば自然と笑みが零れた

 「…御前の眼ってビー玉みたいだよなぁ…あ、そうだ此れやるよ.ほら仲間だぞー」

 じっと瞳を覗かれては
 にっと歯を見せ瓶を手渡された.

 「…旦那此れ空じゃ無ェですか」

 からんと鳴る瓶には液体は無く
 水色のビー玉が揺れた

 「あー?御前にやる訳無ぇだろーが,ラムネは銀さんのお腹の中ですうっと.んじゃ俺ァ帰るわ.またな沖田くん」

 腰を上げ一瞬空を仰いで
 手をひらひらと振り
 歩いて行ってしまった旦那の背中を見送る

 「…ビー玉みたい…ねィ」

 あの人が残して行った
 瓶に入ったビー玉は空と同じ位
 青くて綺麗だった.
 



  →次頁 反省
 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ