小説
□ウラオモテ
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「……DID?」
聞き慣れのない言葉。それを聞いたのは、つい先日行った病院でのことだった。
簡単に説明する。DIDっていうのは、どうやら『二重人格』や『多重人格』のことらしい。同一性のない人格がどうのこうの言っていた。
俺が……?何故?
始めはそう思ったが、どうやら俺の場合、自分でも気付かないうちに他の人格が現れるらしい。記憶の共有もされるので、本当に見つけるのが困難なタイプなのだそうだ。
「立ちくらみがしたら、気を付けること。人格が入れかわっているかもしれない。
……君の場合狂暴な人格はないようだから、入れかわっても大丈夫なのかもしれないが、ここでひとつ困ることがある。
それは、人格がそのまま実体化してしまうことだ」
「……実体化?」
「そう。君は特殊なタイプでね……いつ人格が実体化してもおかしくないような状態なんだ。
実体化してしまうと、その人格はもう一人の『君』として存在することになり、制御も出来なくなる。
……私たちはこれを、『ドッペル』と呼んでいる」
ドッペル……ドッペルゲンガーのことだろうか?
「ドッペルって………もし、人格が実体化したら、俺殺されるんですか?」
「……どうだろうね。場合によってはあるかもしれないが、それはわからない」
医師は顔を少ししかめると、薬のようなものを取り出した。
「人格を抑えつける薬だよ。これを飲めば人格が勝手に現れるのを防ぐことが出来る。……一時的に、だが…」
「……ありがとうございます」
病院を後にしたあと、ポケットに入れた薬を見てみた。
…なんだか不思議な色をしているな。
じっと見ているうちに、急にフラフラと足がふらついた。頭も少しぼーっとする。
……立ちくらみだろうか?
はっとなり薬を一錠取り出すと、こくんと飲み込んだ。
すると立ちくらみと思われる症状は消え、いつも立ちくらみの後に来る違和感は消えた。
「薬生活、か」
ぽつりと呟くと、とりあえずは家に急がねばと足を早めた。