短中編

□守人
2ページ/2ページ



改めて隣りを歩く一也に目を向けて見ると、普段野球に明け暮れているとは思えないくらいには服装に気を使っているようで
これを同じ年頃の男子が着ていたら間違いなくデート服に見えたはずだ

『何か、気合い入れてる?ばっちりキメちゃってるし』

「あ、やっぱそう見えます?今日出かけるって言ったら全身コーディネートされちゃって」

『…いろいろ誤解を招いたんだね』

「はは、千歳さん察し良いっスね」

どうやら本意では無かったようだが、何分素材が良いからか何でも似合いそうだ
将来身長が伸びればきっと正当派イケメンとやらになるんじゃなかろうか

『服でも見に行こっか』

「良いっスよ」

当ての無い街歩きに目的ができるのはいい事だ

向かった先は今時の若者御用達の店
流行色が強いので品揃えはかなり替わりが速い
私は専らオールシーズン着れるスタンダードな物を愛用しているのだが
考えが古いのだろうか

「流行りとかよく分かんねーっスよね」

『私も似たようなもんだわ。一也君はスポーツショップの方が似合いそうだね』

「まぁそのくらいしか買い物とか行きませんし」

『典型的な野球馬鹿め』

そんな会話をしながら店内を歩くが、やはり流行は合わせ方がワンパターンになりそうなイメージだ
そして値段もなかなかである

『うん、お財布に厳しいわ』

「基本高いッスよね」

『他行こっか、私がいつも見てるとこは結構安めなんだよね。合わせやすいし』

「ヘー」

こうして店を梯子してると、意味も無く従弟を連れて歩き回った頃を思い出す
一也の印象のせいだろうか
話せば話す程全く違うタイプなのに

それから馴染みの店で一也を着せ替え人形化(未遂)したのは良いが、会計後にほんの一瞬一人になってた時になぜか絡まれなんだかよく分からない経験をした
ご都合展開のようにタイミング良く戻って来た一也には悪いと思ったが彼氏宣言して逃れ今に至る

『咄嗟とは言え笑えない冗談ごめんね』

「…俺は別に良いんスけどね、さっきのが本気でも」

『何言ってんの君は。年上引っ掛けようなんて10年早い』

マセガキめ、と呟いて軽くデコピンしてやった

「っ痛」

『はっはっは、ざまぁみろ』

「千歳さん大人げ無い」

『ありがとう』

「いや褒めてないです」

きっと私はこんな調子だから集団と合わないんだろう
そんな自己完結をして、行きに買ったコーヒーを飲み干した

「…あの、千歳さん」

『ん?』

「従弟のこと、聞いても良いですか?ほら、俺に似てるって言ってたじゃないっスか。…ダメですか?」

最初に助けたときに言ったことを気にしていたのか

『…ダメではないけど、あんまりいい話じゃないよ』

「それでも良いです」

私は少し沈黙した後、話すことにした

『4つ下で、君と同い年かな。従弟って言うか、本当の弟みたいに思ってる。親同士が姉妹なのもそうだけど、祖父が一人暮らしだからよくこっちの家に集まるんだ。それでいつも二人セットにされてたから…向こうも「姉ちゃん」って言って慕ってくれてたし』

「それで…」

『ただ…祖父は厳しい人でね、私達を近くの少年野球に通わせたの。私はどうしても集団に馴染めなくて、3年で止めちゃった。祖父にはそりゃ怒られたけど、従弟が「俺が二人分頑張るから叩かないで」って私を庇ったんだ。そんなに気が強い方でもないのに、それからあの子頑張って部活じゃレギュラー候補までいってさ』

「すごいじゃないっスか、1年でベンチ入りってなかなか無いし」

『でも、私はずっとあの子に引け目を感じてた。もっと他にやりたいことがあって、私を恨んでるんじゃないかって。君を助けたのも、弟への罪滅ぼしでもしてる気になってるのかも…ごめんね』

「いえ…。従弟、恨んでなんて無いと思いますよ」

『え…』

「だって好きでもないのに頑張れることなんて無いっスよ。きっと本当に野球が好きなんですよ」

どっからその自信が出てくるのかと言いたくなるくらいには真っ直ぐな眼で言い切られた

『何か私が慰められちゃったね…そうだといいな』

「絶対そうですって」

『何で一也君がそんな必死なの』

「千歳さんがそんな顔してるからっスよ」

『そんな顔ってどんな顔よ』

さっきまで真顔のはずだったんだけど

「…思い詰めて泣きそうになってる情けない顔。俺千歳さんの笑った顔の方が好きだし」

『……』

無意識だろうけどそんな顔してたのか
と言うか今さらりと爆弾発言投下したよねこの子
何も反応しないでちょっと逸らされた一也の顔を見ていると、少しずつ赤くなりだした

「……っ何か言ってください」

『あ、やっぱり恥ずかしくなってきたんだ』

「ホント千歳さん性格悪い」

居心地悪そうに残り少ないミルクティーを飲み干す一也は年相応に見えて微笑ましかった

『はは、見てて飽きないねー一也君は』

「どういう意味っスか」

『そのままの意味。それより、さっきの発言はそういう方向でとっていいってこと?』

「そ、れは…まぁ、はい」

眼を逸らされはしたが、何分正面で向かい合っているわけだから朱が差した顔は隠しきれない訳で

『じゃあ、期待しとこうかな。そのうち本気にさせてみてちょうだいな』

「え…っと、それって」

『どうとるかは君次第だけどね』

「…ずるいっスよ千歳さん」

『ふふ、まぁ頑張りたまえよ』

年上ぶってこんな言い方をしてみたが、実際のところ私も案外末期だったようだ
年下も悪くない

「絶対千歳さんがビックリするくらい良い男になってやりますから」

『楽しみにしてる』

いつ来るともわからない成長期に若干の期待をしつつ笑った





そんな時期を通りすぎ、早4年
一也は当時の私と同じ高校2年、私は大学3年になっていた
時の流れや早いようで、当時は華奢で女の子のような容姿だった一也も今は他校や別の学年の女子から絶大な人気を集める、いわばイケメンと言うやつになっていた

本来の目的である、校長や実習監督の教師との打ち合わせを終えた私はグラウンドに立ち寄った
夏は終わってしまったものの、秋大会に向けて新しいチームが動き始めている

「あれ、千歳さん?珍しいっスね、見に来るなんて」

『一也。まぁちょっと野暮用でね。今は休憩中?』

「そんなトコ。周りも見なきゃいけねーし」

『へぇ、キャプテンも大変だね。慣れない立場って疲れるでしょ』

「そうなんスよねー…」

『ははは、まぁ精々頑張れ若者よ』

「千歳さん、最近益々年寄り臭くなってません?」

『20越えると色々あんの。それと私今度からここの教育実習生だから、変に絡まないこと。高校生に手ェ出してるなんて言われたら面倒だし』

「えっ千歳さん先生やんの?集団嫌いなんじゃ…」

『いつの話してんの。社会じゃそんな融通利かないこと言えないし』

「へー、千歳さんも成長したんスね。いつの間にか俺より背ェ低いのに」

『はっはっは、殴っていい?』

「ごめんなさい」

これまでそんなに頻繁に会っていたわけではないのに、長年連れ添ったような感じだ
お陰で私の性格悪いと言われた部分が大分移っているような気がする
実際チームメイトに性格悪いと言われているらしく、もう何も言うまい

『まぁとにかくだ。もし今の立場が息苦しく感じたら周りを頼りなよ、一人で溜め込む必要なんてどこにもないんだから』

「おぉ…千歳さんが歳上らしい事言ってる」

『茶化さないの。ちゃんと自分の事も大事にしなね、一也は野球のことになると異常に献身的になるんだから』

「はは、善処します」

本当に分かってるんだろうか
今でも少し弟のような見方が抜けない
この大変な時期を乗り越えてまたひとつ大人になるまでは、私が守って支えてあげないと
そんな細やかな使命感など単なるエゴだが、それでも今はまだ守人でいたいのだ



end?


「そういや千歳さんの従弟って…」

「あれ、姉ちゃんなんでいんの!?」

『あ、憲史』

「!?」

『そう言えば言ってなかったっけ。前言ってたのこいつ』

「えっ、姉ちゃんの彼氏って御幸かよ!」

「千歳さんの従弟がノリだったとは…いや、似てなくね?」

『いや、ちっちゃかったし後ろ髪跳ね気味だったからさ』

「「ちっちゃいは余計だよ(です)」」

『わーハモった』

...end
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ