短中編

□色褪せた青写真
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酒を挟みながら気儘に話していると、学生時代に戻った気分になる
積もる話も人並みにあり、8年前の続きのようだった

『それにしてもねー、倉持が教師とはねー』

「またその話かよ」

『だってツボじゃん。元ヤンからの聖職とか』

「ほっとけっての。現場じゃ意外とウケ良いんだぞギャップで」

『ギャップ激し過ぎだって。でも勤めてんの高校だっけ、女子高生はちょい悪とか好きだからねぇ』

「おかげで準備室を喫茶店替わりにされるけどな、昼とか」

『いいじゃん若い子に囲まれてさー』

「よくねぇよ。間違っても手なんか出せねーし」

『そりゃあまぁ犯罪だね!』

「そもそも好きでもない奴に言い寄られても嬉しくねーよ」

『何それ純情!っはははははっ!』

駄弁ったり驚いたり笑ったり、本当に酒が進むこと
気付けば2本空けていた

『はー、本日2度目の爆笑ー』

「酒のせいだろ」

『そーかも。訓練あるから最近飲んでないしねぇー』

「お前のとこは何かねーのか?」

『んー、実際やってることは地味なトレーニングばっかだし。まぁ飛行訓練はあるんだけどさ』

「ほー」

『嫌ではないんだけどねぇ…やっぱり学生時代が一番楽しかったなぁ。なんも気にしないで遊んでられてさぁ…歳取ると駄目だねー』

あ、ダメだ涙腺緩んだ

「急に大人しくなったな」

『教えてあげますよ倉持先生ー、女は突然センチメンタルになる生き物なんですー』

「そりゃあめんどくせぇな。突っ伏してると吐くぞ」

『吐きませんー…うぇ、気持ち悪』

「だから言ったじゃねぇか」

それでも背中さすってくれる辺り何だかんだ優しいんだよね
あーもう、昔の私はホント馬鹿だったなぁ

『好きだったくせにね』

「あ?何がだよ」

『言うほどのことじゃないー』

「何だよ気になんだろ、言えやコラ」

『新手のカツアゲだー、お巡りさーん』

「ついでにこの酔っ払い保護してやってほしいな」

『酔ってませんからー』

「はいはい酔っ払いは決まってそう言うんだよ」

バッカ酔っ払いは泥酔して歩けないオッサンだよ
やばい、何か眠くなってきた

「文月、3本目無くなるぞ」

『んー…もういいやー』

「そうか。寝るなよ、帰れなくなるぞ」

『あー寝たら泊めて』

「いやだから寝るなよ」

『無理ー…』

「おい」

何かもう寝てるのか起きてるのか曖昧になってきた
あぁ、そうだ…今なら言ってもいいかな
過去の私が言えなかったあの言葉

『…私さ、倉持のこと好きだったよ』

もう遅すぎるけどね

返事を聞く前に私は意識を飛ばした





「…結局寝やがった」

最後に爆弾を投下して文月は寝逃げした

「ったく、言うのが遅ぇんだよバカ。…ま、俺も同じか」

間抜けな顔で寝息を立てる文月にそう呟いて髪を撫でた

「割りと好きだったぜ、千歳」

結局は終わった恋
過去形くらいが丁度いいんだ

色褪せた写真は戻らないものだからな



end
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