短中編

□色褪せた青写真
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私の職場には滅多に外部からの連絡など届かない
家族や親戚にはそりゃあ年始の挨拶くらいは出すが、そういう行事染みたもの以外で私用の封書の類いは殆ど無い

だからこの手紙が届いた事自体少々驚かされたのだが、その内容は更に懐かしさを運んで来た

『高校の同窓会ねぇ…』

「ヘー、良いじゃん懐かしくて。俺なんて誘われもしなかったぜ?空気だったから」

カラカラと笑うこいつは同期の訓練生で、なかなか気の合う友人だ

訓練生と言うのも、私が勤めているのは空自…基航空自衛隊
私はかつて英語力が心許無かったためにキャビンアテンダントを諦めた航空機マニアである
周りの女の子達は誰が格好いいだの誰と付き合っただので盛り上がるが、私にはどの戦闘機のフォルムが良いとか利便性があるとかを考察する方が幾分有意義だった
人並みの関心はあるが、わざわざ盛り上がろうとは思わないタイプの人種だ

しかし同窓会となれば、彼女らも大人というものになった頃だろう
あれからもう8年になる
青春時代を思い返して酒の肴にするくらいはできるだろう
隊服で乗り込んだら悪目立ちしそうだなと思いながら、私は少ない私服を引っ張り出して盛り方を試行錯誤するのだった

『(別に…あいつが来るかもなんて、期待してる訳じゃ無い)』

彼の存在は、私の細やかな青春だっただけだ



同窓会の会場は、こじんまりとした居酒屋だ
そこで働いている知り合いが店主に話を付けたらしく、その日限りの貸し切りらしい
他の客を気にしなくて良い

そこそこ影の薄かった私が集合ぴったりに行くのも気が引けたので、わざと遅れて来た
既に酒の入った賑わいが聞こえている
一たび店内に入ればまるで宴会場だ
そりゃあ外の寒さなど忘れるか

『(すっごい懐かしいメンツ)』

あどけなさはすっかり抜け切っている面々だが、面影で分かる

「あ、もしかして千歳!?」

『えーっと、明音?』

「そうだよ!わぁー久し振り!」

『ホントにねー、意外と分かるもんだね』

「ね!あ、座って座って、飲み明かそ!」

『うん。って言っても明日も午後からあるんだけどね』

「うわ、日曜出勤とか辛っ」

連れられて来たテーブルには、かつて私を引き込んで恋愛トークをかましてくれた子達がいた
今でもそのトークのアンテナは健在で、誰が結婚してるとか子供に会ったとか
しまいには職場の男性陣の愚痴まで零し始める
女怖い

「千歳は?職場にイイ男いない?」

『あー…私のとこはほぼ男だらけだから善し悪しなんて気にしないなー』

「どゆこと!?何、逆ハーなの!?職場恋愛拗れて修羅場とか巻き起こる!?」

『どういう思考回路してんの、この乙ゲー脳』

「乙女ゲーは正義だよ」

あなたは現実を見なさい

『っていうか、女はあんま入りたがらないよ自衛隊なんて』

「えっ…えぇぇぇぇ!?うっそ自衛隊!?かっこいい!千歳に惚れる!」

『ヤメテ。元々航空機好きだから空自は天職だったよ』

「ヘーすっごいなー」

学生の頃は「女の子なのに?」って言われるのが恥ずかしくて公言できなかったからなぁ
今となっては笑い話だ

「あれ、もうビール空いちゃってる」

『あ、じゃあ私頼んで来るよ』

後から入ったのが取りに行くのがせめてもの礼儀作法じゃなかろうか

「よ、文月」

『はい?え、あ、倉持じゃん』

「なんだ今の間」

倉持洋一、あの野球部の1軍でそこそこ人気があったはず
何の因果か、数少ない席替えイベントで3回連続隣りの席になったせいで何となく仲良くなった記憶がある

『相変わらずヤンキー顔してんの!』

「うっせ、つかヤンキー顔ってどんなだよ。これでも教師やってんだ」

『え、意外。でも生徒に関節技キメてそー』

「バーカ、んな訳ねぇだろ」

案外真面目にやってるのか

「バレない範囲でしかやんねーよ」

『やってんじゃん!』

そうだ真面目なんてこの男には無縁だった

「つーか、お前自衛隊なんだって?意外過ぎてさっきグラス落としたわ」

『落としたの!何やってんの倉持ホント馬鹿!』

酒で自制が緩んだのか、爆笑した
私ってこんなテンション上げられたんだね

「腹抱えて笑うんじゃねーよ」

『だっ…て!グラス落とすとか相当だよ!腹筋痛い!』

「いい加減にしねーと酒瓶で殴んぞ」

『ヤクザだ!ドラマとかのヤクザだそれ!』

どうしてこうこの人は私の笑いのツボを押さえて来るのか

『はー笑ったー』

「笑い過ぎだっつの」

『ふふふ。あそうだ倉持、一緒に飲みませんか』

「何で敬語。俺は別に良いけど、あの集団はいいのか?」

『んー、実際話題に着いて行けないってのが本音かな』

「お前恋バナとか似合わねーしな」

『分かってらっしゃる』

あながち間違ってはいない
お使いを済ませてから離席を伝えて、カウンター席に並んで座った



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