短中編

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千歳が自殺未遂をしてから1週間が経った
当に月を跨ぎ、クラスメイトの席取りは疎らに変わっている
何の偶然か何者かの作為か、千歳の席は変わらず窓際だった
しかしそこに座る者の姿はまだ戻らない
俺は廊下側2列目、大分離れてしまった

あの日から、俺は可能な限り欠かさず千歳の見舞いに行った
面会受付の看護師にはもう顔を覚えられているほどだ
部活にだけは遅れないように、6限の後半を早退しているが、その事は、このクラスを受け持つ担任教諭も黙認している

何度も訪れた病室は、何も変わらずに静まり返っていた
扉を開く度に目覚めていたらと願うが、千歳はあの時のまま眠り続けている
この病室だけ時が止まっているような気さえしてしまう

「千歳」

呼び掛けても返事は無い
それも構わずに俺は語りかける
その日あったこと、部活のこと、あの日以前隣同士で語らっていたような話を

「なぁ、千歳…俺もう辛ぇよ」

彼女の手を強く握る
それに比例するように視界が滲んでいく

「好きなんだ、千歳…お前がいなきゃ俺の時間も動かねぇんだ。だから…目、覚ましてくれよ…千歳…っ」

祈るように包んだ手が、握り返されたような気がした





目が覚めた時、視界に広がったのは白い天井だった
しかしすぐに滴で滲んだ
生きていた事への失望なんかでは決してない
寧ろ漸く戻れたと言う安堵だ

眠っている間のこともいくつか覚えている
あれはきっと臨死体験だ
でなければ、たった今目覚めた自分が誰もいない空間で特定の誰かが傍にいたことを知るはずがない
言葉も全部聞こえていたのだ
御幸君が居場所になると言ってくれたこと、私を好きだと言ってくれたこと、ずっと還りを待ってくれていたこと

『御幸君…っ』

今まで生きてきて一度でも、これ程までに誰かを想って泣いたことがあっただろうか

引き戸が動く音が聞こえ、ゆるゆると顔を上げる

「…!千歳…?」

姿を見せたのは真っ先に会いたいと願った人だった

『御幸君…』

「千歳!」

彼はなりふり構わずに私を抱き締めた

温かい、久々に感じる人の温もり

「夢じゃ、ないよな…本当に、目覚めたんだよな…」

『うん…私はちゃんと、ここにいるよ』

「良かった…」

微かに肩を揺らしていた

『ありがとう、御幸君…心配してくれて、待っててくれて…嬉しかったよ』

涙を流している彼の背に手を回してそう告げた

「千歳…、おかえり」

『うん…、ただいま』

お互い、泣いた後のくしゃくしゃの笑顔がおかしくて、笑った





その後のナースコールで目覚めたことを伝え、すぐに検査が行われた
その結果、怪我も完治しており後遺症などもなく、明日にでも退院できるそうだ
院内の公衆電話から学校に連絡し、担任にこの事を伝えると涙ながらに喜び、クラスを挙げて千歳の退院祝いをすると意気込んでいた

千歳が目覚めたら告げるはずだった言葉はまだ、本人には聞かせていない
現実に復帰したばかりの千歳を困らせたくはなかった
明日、退院する彼女を迎えに行って、その時にでも言おう

そして落ち着いたら、あの日のことを聞いてやろう
そうしたら、ここに通いつめていた数日間の話でもして一緒に笑って過ごしたいと思う

「千歳」

『どうしたの?』

「明日迎えにいくから、待ってて。言いたいこともあるしさ」

『…うん、待ってるね』


 どうしようもなく君が好き
 (―もう離さない、絶対に)
 ((臆病でも、今なら言える))



窓際の少女 -fin-

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