短中編

□窓際の少女1
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このクラスでは、月に一度席替えが行われている
彼女と話したのはその時が初めてだった

「(窓際から2列目か…)」

くじ運任せで引いた紙切れに記された番号を照らし合わせると、悪くはない位置取りだった

『隣り、御幸君なんだ。よろしくね』

声を掛けて来たのは、4月からずっと窓際をキープしているクラスメイト、文月千歳
まさに窓際の少女と言ったところだ
これまでの印象は《変わったヤツ》…正直、苦手だ

「ああ、よろしくな」

何とも味気無い会話だ

文月はそれっきり、ずっと窓の外を眺めていた
俺は漠然と、窓辺の似合うやつだと思った



隣りの席ってのは、案外接点ができるらしい
朝は「おはよう」から始まり、他愛もない話をする
自然と交わす言葉が増えた

「(また外見てんな…)」

授業中に板書を写し終えると、隣りに目を向ける時もあるが、文月はかなりの確率で顔を窓に向けている
壇上の講師の話を聞いているのかは些か疑問だ

話すようになって気付いたこともある

『御幸君、さっき見てたよね』

「へ?」

『視線痛かった』

「あぁ…悪ィ」

文月は鉄仮面だ

『気にしてないけどね』

常に薄い笑みの、ポーカーフェイス

「そーか
(むしろなんで気付けんだ、視線とか)」

気付いたら気になっていた



席替えから2週間
文月と話すようになった事以外は何ら変わりはないが

「最近お前、文月と仲良いな」

言うと思った
チームメイト兼クラスメイトの倉持はよく周りを見ている
俺はスコアブックに視線を落としたまま答える

「そうでもねーよ。ただ席が隣だからってだけだし」

「嫌味かテメェ。隣ってだけで関わるかよ普通。あいつ話しづれーし」

確かに少し近寄り難い雰囲気は出てるが

「大丈夫、俺が女だったらお前と話したいとは思わない」

「殺すぞ」

午後の予鈴が鳴ると同時に蹴られた

「痛っ足を蹴るな足を」

「後でタイキックな」

文月はクラスで浮いた存在だった。だから余計目立ったんだろう
誰もが口を揃えて「話しづらい」と言うが、あいつは案外普通だ。落ち着いた雰囲気の、普通の女子

ただ一つ引っ掛かる事があるとすれば

「(まただ)」

時折、不意に見せる笑みが消える瞬間…憂いの表情
哀しみを閉じ込めた、黒曜石の様な瞳に引き込まれそうになる
その深い黒の奥底に秘められた「何か」を、知りたいと思い初めていた

「文月」

翌日、朝には珍しいことに下駄箱で鉢合わせた

「おはよ」

『おはよう、御幸君』

口数は増えも減りもしない
それでも、俺は彼女に魅かれていた

『この前、試合だったんだね』

「ああ。もしかして見に来てた?」

『少しだけ。後半の3回くらい』

「じゃあ、今度は全部見に来いよ」

『都合がつけばね』

「俺文月が応援に来てくれたら打てる気がする」

『そう』

文月はこちらを見上げて、いつもの笑みを浮かべるだけだった

「(やっべー絶対引いてる…、どうすんの俺)」

『(いつも応援してるんだけどね)』

階段に差し掛かるところで漸く話せた

「あー…文月、さっきのは気にしなくていいからな」

『何で?』

「え、いや…いきなり言われても引くよなーって」

『てっきり、遠回しな告白かと思った。そんなワケないのに』

「!」

予想外過ぎる返答だった

『気にするなって言うなら、忘れとくね』

文月は表情一つ変えない

「あぁ…なんかごめん」

気まずいのは自分だけのように思えた

「(うわー…俺恥ず)」

この時、俺は漸く自覚した

「(あ、やっぱ告白にしとけば良かった)」

ほんの少し前を歩く文月の揺れる後ろ髪を見ながら思った

「(多分、好きだ)」

確かに恋が芽生えた



 いつの間にか、君が好き
 (―気が付いたら見てたから)
 ((君よりもずっと前から好き))



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