短中編

□それが恋ってヤツですか
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『春市ー』

「どうしたの?要君」

『んー…なんでもない』

何の変哲もないやり取りのはずだが、忘れないでもらいたい、ここは教室だ
クラスメイトは慣れたように、《また始まった…》と心の声を揃えていた

当の二人は完全に別世界
何やらピンク色のオーラすらも見える

春市は本を読んでいるが、要は隣りの椅子を寄せて座り寄り掛かっている

「「(家でやれよ!!)」」

口には出さないが、全員の心境が完全に一致した
要に椅子を借りられている男子生徒は些か不憫である

「(あーもうあいつら…って言うか比叡おい、ぐいーって押して構ってアピールしてんじゃねーよ女子かお前)」

「(あ、小湊気付いた。そこで撫でるな!このバカップルが!)」

「(つか何なん!何なんこいつら!見てて超腹立つ!)」

「(独り身に震えてる俺達への当て付けか!?)」

「(もうこの際俺らくっつく?)」

「(止めてくれ。少なくとも女の子が良い)」

クラスの大半はもうバカップルを見守る保護者と化している

『(やっぱ春市かっこいい)』

「(要君はかわいいなぁ)」

…バカである





春市はかっこいい
背は俺より低いけど、部活で忙しいのに勉強できるし、優しいし、何より野球やってる時は一番輝いてる
何気ない気遣いとか紳士的だし
俺のちょっとした無言の我が儘にも気付いてくれる

『―つまり何が言いたいかって言うと、春市が大好きって事』

そうそう、こんな事言った時に照れちゃうところも好き

「要君、さすがに恥ずかしいよそこまで言われると」

『だって春市が好きなとこ言ってみてって言うから』

「そうだけど…」

まさかここまで具体的に語られるとは思わないじゃん

『じゃあ春市が言ってみて、俺の好きなとこ』

「えっと…」

うーん、たくさんありすぎて何から言っていいか…あ

「言葉じゃ言い尽くせないくらい。それくらい好き」

あ、照れた。耳まで真っ赤だ

『またそういう事言うー、大分恥ずかしいよそのセリフ』

「じゃあこんな事言えるくらい好きって事で」

『…好きなとこ一個追加。ちょっと意地悪なとこ』

「それが好きなとこに入るのが要君らしいよね」

『ん』

あ、やっぱもう一つ追加
キスが上手いとこ
…言わないけど

「何笑ってるの?」

『何でもなーい』

だって、キスした後ちょっと照れるの言ったら直そうとするし

『ね、ぎゅーってしたい』

「良いよ」

要君の言い方、かわいいんだけどこういう時体格差が悔しい

「もっと身長伸びないかなー」

『春市はそのままでも格好いいよ』

「…でも、やっぱりかっこよく抱き締めたいじゃん。彼氏として」

『んー…』

背の高い春市か…

『やっぱだめ』

「何で?」

『それ以上かっこよくなったら俺の心臓が持たない』

「…どうしよう要君が物凄くかわいい事言う」

むしろこれ以外俺の心拍数上げてどうしたいの、殺す気?要君

『ホントの事だってば』

「…明日から牛乳飲も、1リットルくらい」

『そんな事したら背ぇ伸びちゃう』

「170はほしいよね」

『…そんなにあっても、良い事あんま無いよ』

「要君は170超えてるからそんな事言えるの」

前に教えてもらったけど174だったよね。何その奇跡みたいな数字

『で、でも…春市はそのままの方が良い!』

「何でそんな頑ななの」

『……』

とても言えない。お兄さんもあの体格なんだから遺伝的に伸びないんじゃないかなんて

『…ギャップが良いの』

「……」

うん、やっぱり要君かわいい
これじゃダメ?って捨てられた子犬みたいな顔で見上げてさ

「仕方ないから、それで良いよ」

『良かった』

「全く、かわいいんだから」

ふわふわした癖っ毛を撫でると猫みたいに眼を細めるのも
その後ふにゃって笑うのも
よく考えたらこんな要君を独り占めにできるって、幸運すぎて俺運使い果たしてるかも

『春市、好き』

「俺も好きだよ、要君」

今は好きの応酬ばっかりだけど、まぁいいか



 それが恋ってヤツですか
 (何かピンクのオーラ立ち込めてる…)
 (自販機近付けねぇ…)



end

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