短中編

□淡色の初恋
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すっかり工事のフェンスに覆われた母校に足を運んだのは、ある種のホームシックと同じだろう

赤城中学校は廃校となり、新しい事業のための敷地となる
幼くも青春をしていたグラウンドは時機に姿を変えてしまう
ならばと、その光景が変わってしまうまでの僅かな間だけでも、広いグラウンドの景色を胸に刻み込むために時折訪れている

「千歳?」

自分を呼ぶ声を向くと、同じ時間を過ごした友人の姿

『若菜』

「どうしたの、こんなとこで」

『うん…ちょっと、ホームシックって言うのかな。寂しいなって』

「そっか…」

学校の存在以外のことも含まれている事に薄々気付いた

「メールしないの?あいつに。あんまり返信来ないけど」

『それは…考えたけど、やっぱり苦手でさ』

「…千歳、今時携帯が苦手って致命的だと思う」

『長年おばあちゃんと暮らしてればそうなっちゃうって』

「それでも、今のうちに慣れとかないと東京行った時恥ずかしいよ。県大会通ったら行くんでしょ?」

高校に入って、漸く弓道部と巡り会い入部してから約2ヶ月
全国が掛かった県大会に出場する事になっていた

『うん…』

「だからって訳じゃないけど、
そうなったら連絡取れた方が良いでしょ。私達も応援メッセージ送るし」

『あ、確かに…』

「大丈夫、分からないとこはちゃんと教えてあげるから」

『ありがとう、若菜』

今後の課題が確定した瞬間だ



帰宅した後、私は筆を取った
控え目な装飾があしらわれた便箋を引っ張り出す

「あら千歳ちゃん、お手紙?」

『うん、やっぱり手書きの方がいいかなって』

「ふふ、思い出すわぁ…おばあちゃんも若い頃は、好きだった子にお手紙出したっけねぇ」

『もう、おばあちゃんってばからかわないでよー』

「ほほほ、さぁて何のことでしょ」

祖母にやんわりとからかわれながら、遠くに行ってしまった友人へ向けて手紙を書いた
そっちの暮らしはどうか、こっちでの最近の事や自身の事、そしてこれまでずっと隠していた自分の気持ちも、ペン先の向くままに全て綴った

数ヶ月間、もやもやと留まっていたものが晴れたような気がした

『…返事は、望めないよね』

きっと彼にとっては余計なものでしかないのだろう
初恋は叶わないとは、誰が言い出したのだろうか、全くその通りだ

封筒に宛名を記し、綴った手紙を三つ折りにして納めた
この封筒が、彼の元に届くのは
いつになるのかと考えながら投函した







青道高校青心寮
千歳の手紙は数週間経て無事に辿り着いた

入寮している学生に物資が届く事は珍しくないが、封書の部類は話も聞かない
少なくとも自分がここに来てからは1度もなかったと、御幸は思った

因みに青心寮のポストは、確認するようなマメな人間がいないため機能を果たしていない
アルバイトであろう配達の青年はそれを知らずに、ポストに投函しようとしていた
直接渡した方が速いと言って受け取ったのが今し方だ
宛名の名前のある5号室に向かう

「あれ、御幸センパイ」

呼んだのは丁度所在を探していた人物だ

「おー、丁度良かった。これお前宛」

「あ、ども」

目的は果たしたので、さっさと自室に戻る
差出人に書かれていた人物に興味が無かったわけではないが、後日聞いてみればいいかと結論づけた

残された方の沢村は、送り主の姿を思い出しながら自室に引っ込んだ

「(手紙ってとこが千歳らしいんだよな)」

たまにメールを寄越して来る幼馴染みとは違い、携帯で文字を打つ事自体が苦手な彼女の性分をよく表している

「お、やっと戻って来…ってお前、何ニヤけてんだよ」

「へ?」

いつものようにゲームに付き合わせようと企んでいた倉持は、封書片手に緩んだ顔で戻って来た沢村に引いていた

「さてはそれ、彼女からの手紙ってやつか」

「は!?いや、彼女じゃねーっスよ!」

「その慌てっぷりは怪しさ全開だな、代わりに読んでやる」

「横暴だ!」

暫くの攻防の末、死守した沢村が封を切った



――――――――――――――
拝啓
次第に夏の匂いを感じさせる時期になりました。東京は暑いと聞きますが、お変わりなくお過ごしの事と存じます。
なんて、時候の挨拶とか今時使わないよね。
高校生になって2ヶ月くらい経ったのかな、長いようで短いんだなって思いました。
みんなは相変わらず、野球部で頑張ってます。グラウンドで走り回ってる姿が少し眩しいくらい。
私は結局弓道部に入りました。やっぱり夢は捨て切れなかったよ。自分の夢のためにみんなを裏切ってしまって、少し寂しい気もします。
栄純もこんな気持ちで東京に行ったのかなって思うと、なんだか悲しくなりました。
でも、振り返らないで。前だけを見据えて、夢を叶えてください。
いつでも応援してるからね。
さて、そろそろ本題に入りたいんだけど、いざ書こうとするとどう書いて良いか分からなくて机の前で悩んでます。でもやっぱり、伝えておきたいから書きます。




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