シャーマンキング夢

□俺物語
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地上に戻り、それぞれの夢を叶えるべく、俺は一先ず実家に帰った。

最寄り駅につき、家までひたすら歩く。
「随分と整備されたもんだ、北海道。」
建物も増えたし、コンクリートの道が増えてる。
また自然が減ってるんじゃないかと心配になっていると、ふとシャーマンファイトが始まる前まで俺が通っていた中学校が視界に入った。
「懐かしいな…あれから二年も経つんだよな。あいつ元気かな…。」
「あいつって、もちろん私のことよね?」
鈴のような、雪が積もるような、凛とした声が聴こえた。パラパラと下校途中の生徒が俺の前を横切る。振り返ると、校門のど真ん中で仁王立ちしている女生徒がいた。
「っおめぇ!…美鶴!!」
荷物をほっぽり出して思わず駆け寄る。
勢いつき過ぎて、抱きしめてしまいそうになる。寸でのところで留まらせ、隈なく見つめた。目の前まで立つと、すっかり成長した様子が伺える。相手を真っ直ぐに見据える目つきはそのままに、輪郭やら体つきやら、引き締まっているものの、全体的に丸みを帯びてすっかり女になっている。俺よりほんの少し低いくらいの位置にあった頭が、俺の一つ分下にあり、俺も美鶴も成長したんだなと思った。
「ちょっとホロホロ、久しぶりだからって、胸ばっかり見ないでよね。」
「ばっ!おめぇそんな見てねぇよ!!ちょっと見ちゃったけど!」
「ふふふ!馬鹿正直なところは変わってないのね!…ところで、シャーマンキングになれなかったんでしょ?」
ぎくっ。胸の話も、シャーマンキングの話も、痛いとこつかれた。
「おっおう…。ピリカ達から聞いたのか…?」
「そうよ。ピリカちゃんとパパさんから聞いた。ハオっていうとっても強い人がなっちゃったんでしょ?」
うつむく俺。美鶴に見せる顔がねぇ。すっかり忘れていた。
「…そうだ。…わりぃ美鶴。本当にすまねぇ。約束…守れなくてよ。」
目を合わせることができない。俺が北海道を出立したあの日から二年、一度も連絡しなかった。思い出せば会いたくなる、帰りたくなるからと記憶の中にしまい込み、そうして修行に励んだ結果、俺だけの夢じゃないことを忘れていた。
でも、待ってくれていたんだ、こいつは。しがない俺を…。
ふいに暖かいものに包まれた。目線を上げると、美鶴が俺の背に手を回し、胸元に顔を埋めていた。
「ホロホロは頑張ったわ!実際の戦いを見た訳じゃないけど、本当にホロホロは頑張った。シャーマンキングになって帰ってきてなんて言ったけど、生きて帰ってきてくれるだけで、私は嬉しい…!!だから、いいのよ。ありがとう…!」
そう言って、美鶴は静かに嗚咽を漏らし始めた。
そんな様子を見ていられなくなり、ぎゅっと目を瞑り、力強く抱きしめ返す。
「ありがとな、美鶴…!こんな俺を待っていてくれてよ。…シャーマンキングにはなれなかったけど、俺は夢を叶える。でっけぇフキ畑つくってコロポックルがゆったり暮らせるようになるまで、俺は諦めねぇ!!」
小さく、何度も頷く美鶴。
「わ、わたし、堅実的な女だからっ、こんなことの為に、ちゃんと考えておいたの。」
「おい、それって俺がシャーマンキングになれないとちょっとでも思ってたってことか!?」
「そうじゃないわよ!!そうとも言えるけど…ゲフンゲフン、とにかく!私に考えがあるわ!」
やっと目を合わせられる二人。お互いに、思わず小さく吹き出してしまった。
「ホロホロ、あなたこれからどうするの?進路。」
「うげぇ!先生みたいなこと言うなよ。」
「そりゃあ、中3の秋も終わろうとしているこの時期、必要なことだからよ。あなたシャーマンキングになることしか考えてなかった口でしょ?なれない今、具体的にどうやって夢を叶えるつもり?」
「うっ…!…の、農業高校に進学…?」
「それで?」
「それで……。うがぁぁぁあ!!!!わっかんねぇよ、地道にフキを植えていくしかないだろ!?」
「はぁー、そんなことだろうと思った。あなたねぇ、あなた一人、ないし二人で植えていったとして、一生かけても環境は改善されないわよ!もっと多くの人々に自然保持、環境改善に努めてもらえるよう訴える活動とか、そのための資金とかが必要になってくるわけ。わかる?」
「カンキョーカイゼン、シキン…??」
「そんな碓氷ホロケウ君のために、私望月美鶴が完全サポートしてあげます!!」
「…はぁ?おいそれどーゆーことだ?」
「だから、細かいこと考えるのが苦手なホロホロのために、私が案を提案して、一緒にコロポックルの住処を増やそうって言ってるの。」
暖かい陽だまりのように微笑む美鶴。ここに…ここに天使がいるぜ…!!
再び抱きしめる俺。こんなに俺のことを思ってくれる奴はいない。こいつを手放す訳にはいかない!なんとしても二人三脚で理想郷-ユートピア-をつくるんだー!!!!
「美鶴!!俺職員室行って編入手続き的な?やつしてくるからよ!そこで待ってろ!!うおーーーーー!!!!」
「えっ!?ちょっと待って、手続きするならまず役所よ!しかももうパパさんが手続きしたから必要ない…って早…!」
ホロホロが走り去って煙のみが残る。ため息一つついて、ホロホロの大荷物を抱え、美鶴は職員室へ向かうのだった。

1完
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