DMC小説(短編)

□tango in evony
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☆またもやネロくんが乙女モードですがそれでもOKな方は↓↓↓
















【tango in ebony】




「……あー…」

思わず、情けない声が出る


嫌な、予感はあった


いつもより湿った風
やけに重い空気
昼間だと言うのに明かりをつけなければ
陽が落ちたように暗い室内

ネロは自室の窓から外を眺めるより先に、その音によって気づいてしまった

――陰鬱な雨音に


こうして室内に響くくらいだ、外は結構な降り方に違いない

(昨日はあんなに晴れてたのに…いきなりコレかよ)
胸の中でボヤキながら彼は

下の事務所でいつものように愛用の椅子に腰掛けて
机に足を投げ出し雑誌を捲っているだろう男の姿を思い浮かべる
さすがにこの雨には気づいているだろうが

きっと
『雨じゃ仕方ないな』
くらいにしか、思っていないはずだ


(俺のせいじゃない、普段の行いが悪いのはオッサンの方だからな…クソッ)


何故ネロがこうも不機嫌なのか?
天気くらいで機嫌を左右されるような彼ではない、が

今日は何としても、晴れていてもらわなければ困る日であったのだ
「止みそうにない…か」
ネロは恨めしげに覗きこんだ窓から身体を離すと
勢いよくカーテンを引いた



「…プッ」
ネロが事務所に降りるなり、想像通りに椅子に腰掛けたダンテが雑誌の向こうで小さく吹き出した
怪訝な面持ちでネロはそれをひと睨みする
「何、笑ってんだよオッサン…」
つい声が刺々しくなるのが自分でも解ったが
雑誌を下に下げて此方を覗くダンテの眸に浮かんだ微笑を見つけたネロの眉間には、更に深い皺が寄った

「―…いや、きっと坊やは不機嫌なんだろうな、と思ってな…そこまであからさまだと解りやすい」
「…そういうアンタはどうせ『雨なら仕方ない』くらいにしか思ってないんだろ」
口を尖らせるネロに
ダンテは気づかれないようにまた小さく笑う
これ以上不機嫌になられては困るし、いくら拗ねた顔も可愛いと思った所で本人はこれっぽっちも嬉しくないだろう
「また明日も明後日もあるだろ?坊やとデートすんなら毎日でもOKだ」
「…良い歳してデートとか言うな、それに悪魔狩りはデートじゃねぇ」
「最近珍しくたて込んで依頼があったんだ、そう怒るな」
苦笑しながらダンテは雑誌を机上に放ると、やんわりと腰を上げた


ダンテの言う通り、ここ1週間ばかり立て続けにDevilMayCryには『当たり』の依頼があって
かなりの多忙と言っても過言ではなかった

そんな折、ポツリとネロが漏らしたのだ
『陰気な悪魔の面ばかりじゃ嫌気もさしてくる、たまには賑かな街に出たい』
――と

仕事となれば進んで暴れるネロだが
それとこれとは話が違うらしい
『一緒に』
とは言わないあたりがネロらしいが、そこは天の邪鬼な恋人を持つ身のダンテ

気持ちを汲み取って
『なら明日…ぶらぶらデートでもどうだ?坊や』
逆にストレートに言ってやればネロが渋々ながらウンと頷くのも最早、想定内だ

所謂、経験の差と言えようか
さすがに雨までは予想出来なかったが、もし『デート』が中止ともなれば
ネロはすこぶる不機嫌になるなるだろう事は考えるに容易い


ダンテは不機嫌な顔を隠そうともせず、腕を組んで窓の外を睨むネロの傍らに立つと
その柔らかな髪をクシャリ、とかき混ぜた
「坊やのそういう顔も悪くないが、楽しい時間を過ごすなら笑顔に限る」
「悪かったな、ノーテンキにニコニコ出来なくて…生憎、この雨に楽しさなんて少しも見いだせなくてね」

「なるほど…そんなに俺と『デート』したかったのか坊やは……照れるな」
「何を照れんだよ!デート言うなっつってんだろ!坊やもヤ・メ・ロ!」
「ハイハイ…姫のご機嫌は麗しくないようで」
「誰が姫だっゴラっっ!」
「ハハ、冗談だ」
顔を真っ赤にして怒るネロからサッと身体を引いたダンテは、そのままコツコツとブーツの底を鳴らしながら歩き出した

「不機嫌な恋人の――曇った気分をどうにかするのも…大事な役目って訳だ」
嫌に芝居がかった口調で話しながらダンテはジュークボックスをトントン、と叩きネロに向かって微笑んだ

「こんな日にロック?いや違うな…折角の雨だ、そいつも利用してやらなきゃ勿体無い」
「は?…アンタ何言っ」
戸惑うネロを横目にジュークボックスから離れたダンテは、更に奥の棚まで歩き

長い間使っていないだろう埃っぽい古びたステレオの電源ボタンに指で触れた
『カチ』とアナログめいた音がして
時間差で流れ出したのは緩やかなピアノ曲
誰が聞いていたのかネロには解らないが、どうやらレコードがそのまま置かれていたらしい

スロウで美しいピアノの旋律が場違いにも流れると
ダンテはネロに向かって真正面に立ち
頭の中が『?』だらけのネロに向かって
うやうやしく腰を落とすようにお辞儀する

「…Shall we dance?」
そう言って差し出されたダンテの手を見て
呆然としていたネロの眸は数度瞬きを繰り返し




次の瞬間、彼は
思わず吹き出していた
「ちょ…、何だよソレ…!似合わな過ぎだろ!」
「誘ってんだろ?ほら、一緒に踊れよ」
必死に笑いを堪えるネロの手を取り、片手を腰に回す
しかし、そのステップはワザとなのかどうなのか
デタラメも良い所で、酷く不恰好にしか見えない
「や、やめろって!マジで苦しっ…か、カッコ悪!」

声を上げんばかりに笑いの止まらないネロは
可笑しさからか涙目になっていた
全てがちぐはぐで
雨の音すら滑稽に感じてしまう

「……あ」
ふとそんな気持ちに気づいた彼は咄嗟に顔を上向けると、柔らかな微笑みを浮かべて自分を見つめるダンテと視線を交差させた

「――ダンテ」
あんなに耳につく陰鬱な雨音だったのに――今はそれよりも、全身に響き渡るような自身の鼓動が、煩い


いつまでも子供みたいに拗ねていた自分が、恥ずかしい
常に自分を最優先してくれるダンテが約束した事なのに――その本人が、予定外な雨を何とも思わない筈がない

「ダンテ、――…俺っ…」

立ち止まって俯いたネロが言いかけた言葉を奪い取るように
ダンテはその顔を覗き込み、背を屈めて唇にキスを落とした
触れるだけの、優しいキス

ほんの少し唇を離して見つめ合う瞳が、悪戯っぽい笑みを浮かべる
「『デート』はお預け、でも…楽しい事は幾らでも出来るさ」
「……けど、」
「そんな顔すんな、怒った顔を見るより切なくなる―……そうだな…晴れるまで、踊ってるか?そしたらそのまま『デート』に行けるだろ」
真面目な顔で囁くダンテに、ネロはクスッと笑ってしまった



時に子供のようで
まるで敵わない程大人
そんなダンテに
どうしようもなく、惹かれている自分がいる

その証拠に、ピアノの音も雨音も――聞こえない
あるのは、2人の手から伝わる鼓動だけだ




「…良い歳してデート、デート言うなよ」
今度は自分からキスをひとつ
いくら言葉で隠しても
心音は正直すぎるくらい速まっていく

ネロは手を離すと、その両腕をダンテの首にかけた
「こんなのも悪くないな…たまには、だけどさ」
キュッと抱きつくネロの強がりな言葉と裏腹な仕草に、ダンテは笑みを溢す




外は雨
止みそうにもない、けれど



「次は、何を踊ろうか?」




2人は抱きあったまま
弾かれたように
堪えきれない笑い声を上げていた





fin****

一緒にいるだけで幸せ

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