クリスマス企画

□豆獅子
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賑やかな居酒屋、酔っ払った若者が騒ぐ広い座敷の隅で氷の溶けきった薄いサワーをちびちびと飲む。
大学の友人に誘われクリスマスを口実にした飲み会に顔を出してみたものの、蓋を開けてみれば、俺は女の子を誘うための餌だったというわけだ。
俺は女の子にちやほやされるのも酒を飲んで騒ぐのもくだらないとしか感じられなかった。

酒が入るほどに気持ちが冷めていく自分に気が付き、アルコールで頬を赤らめ しなだれかかってくる巻き髪の女を、にっこりと微笑みながら引き剥がし、幹事に会費だけを渡して店の外に出る。

居酒屋が立ち並ぶ賑やかな通りは酔っ払いや客引きが多くうっとおしくて、今日は裏道を通って歩いた。
白い息を吐きながら歩いていると、吸い込まれそうなほどの真っ暗な空からちらちらと白い雪が舞い降りて、
少しばかりアルコールの入った身体にひんやりとした空気がしみ、ぶるりと震える。

真っ暗な公園の片隅に、煌々と光を放つ自販機を見つけ冷えた身体を温めようと缶コーヒーを買った。
プルタブに指をかけたところで、男にしては少し高めの歌声が聞こえてきた
声のする方向を振り返ってみると公園のベンチにはもこもこと着膨れた男が座りクリスマスソングを歌っていた。

ふつうならば一人で歌っている男など見たら危ない奴、なんて思ってすぐにその場を離れただろうが、その声があまりにも美しくて聞き入ってしまった。
なんだか切なげで、何かを訴えかけるような芯のある歌声…冷め切っていた気持ちがじわりと熱を持つようだ。

聞き入っていると突然歌声が止まり、何事かと思って目を向けると
瞬間、着膨れた身体を揺らし「くしゅん」小さなくしゃみをした。
いつからそこに座っていたのだろう…

「すみません、勝手に歌、聴いてて..その...すごく綺麗な声..ですね。あっ、えっと、寒いのでよかったらこれ、飲んでください。さっき買ったばっかりなので...」

あぁ、俺は何を言ってるんだろう。
初対面の男にコーヒーなんて…
勢いでコーヒーを渡してしまってから後悔していると、

『…ありがとう…』
とても小さな声でそう言って、小さな表情の変化ではあったがほんの少しだけ口角を上げ微笑んだ。

クリスマスというイベントなどうっとおしいものだとばかり思っていたが、
今夜ばかりは違う、久しぶりに胸が高鳴った素敵なクリスマスだ。


fin

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