玉響に咲く花

□参話
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雪の舞い散る闇に包まれた京の町。
浅葱色の羽織を纏う白髪の男が、刀を片手に、瞳には狂気の色を浮かべて彷徨っていた。

「おい…」

脇道から同じ浅葱色の羽織を着た青年が現れ、行く手を阻む。

「いい加減屯所に戻るぞ」

男は青年の言葉が理解出来ないのか、不気味に笑い声を上げるだけだった。
青年は面倒そうに舌打ちをすると、刀をに手を掛ける。

「全く、どいつもこいつも手間掛けさせやがって…」

青年はニタリと笑い、刀を鞘から滑らせた。



昼過ぎの陽気で雪が溶ける中庭で千晶は井戸から水を汲み上げ顔を洗っていた。

「おはよう、千晶ちゃん」

「総司?」

背後からの声に濡れた顔のまま振り返ると、沖田が縁側からこちらを見ていた。

「今朝も随分ゆっくりだね。よく眠れた?」

「あー、まあまあだ…」

男装を始めてからすっかり口調が荒くなってしまった千晶はまだ少し眠そうに答える。

「そういや、今朝は随分騒がしかったけど何かあったのか?」

「あぁ、昨夜ね、隊士達が浪人を斬り殺してるところを女の子に見られちゃってね。色々聞いてたからかな」

「ふーん」

「どうも綱道さんの娘さんらしいから、綱道さん探しに役立つだろうって事で土方さんのお小姓にするって」

沖田の話を何となく相槌を打ちながら聞き、縁側へ上がる。

「見に行く?」

「いや、飯が先だ。腹減って死にそうだ」

そう言って厨の方へ向かう千晶に沖田はついて行くのだった。



「千鶴ちゃん、入るよ」

千晶の食事後、沖田と千晶は綱道の娘がいる部屋を訪れた。
襖を開けた先には可愛らしい顔立ちの千晶と同じ年頃の少女が1人。
娘と言うものだから、上品に着物でも着ているものかと勝手に想像していた千晶は、袴姿に髪を結い上げた彼女に目を丸くした。

「だから小姓なのか…」

小さくぼやいた言葉に少女は首を傾げる。

「あの、沖田さん。こちらは…?」

「千晶ちゃんだよ。僕らと同じ幹部みたいなものかな。」

「あ、あの雪村千鶴です。よろしくお願いします…!」

「あぁ、よろしく」

緊張した面持ちの千鶴に、千晶は思わず笑みを零す。

「そんなに緊張しなくていいって」

「千晶ちゃんも、女の子だから困った事があったら何でも聞いたらいいよ」

沖田の言葉に千鶴はキョトンとした顔をする。

「おい、総司。いきなりバラさなくたっていいだろ…」

「だって、いいじゃない。男所帯でずっと女の子1人だったし、千晶ちゃん友達少ないし」

「余計な事言うな!」

ケタケタと笑いながらからかう沖田に、千晶は肘で小突く。

「千晶さんも女の子…?」

「あぁ。あと、千晶さんとかいいから。歳も近いしもっと砕けて貰えると嬉しい」

「う、うん…!」

千鶴の返答に千晶は暫くぶりに年相応に笑う。
それを見た沖田は人知れずホッとした様に笑みを零したのだった。




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