自己中心的弱虫少女

□3話
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6月
日に日に気温が高くなり、雨を多く呼ぶ季節。
雫はいつも通りに目覚め、いつも通りに登校する。
特に変わりのない、いつも通りの朝だった。

「おはよう、一護!」

校門前、オレンジの頭を見つけた雫は真っ先に駆け寄る。

「おう!おはよ!」

彼に似合わぬ笑顔に雫は首を傾げた。
携帯を取り出し液晶に映し出された日付を確認した。

「どうかしたか?」

一護は雫に尋ねたが、雫は首を横に振った。

「何でもないよ。行こう!」

いつも通りの一日が始まる。



「一護!」

放課後、帰り支度を終えた雫は机を挟んで彼の前に立つ。

「ちょっと買い物付き合ってもらっていい?」

彼女がこうして一護を誘う時は、大抵スーパーのタイムセールなどがある時だった。

「あぁ、今日は何を買うんだ?」

一護の答えを聞いて雫はにっこりと笑った。



2人で両手にいっぱいのビニール袋を持ち、夕焼けの中を歩く。

「ごめんね、こんなに沢山…」

「いいよ、別に。うちの分も買い物出来たし、いつもの事だろ?」

「ありがとう」

こういう風に2人で買い物をするのはよくある事だった。
1人暮らしの雫はいつだって買い物はスーパーの特別セールの日。そして一護を誘うのだった。
知り合ったばかりの頃に一度だけ、一護は彼女に家族の事を尋ねた事がある。
雫は寂しそうに笑って、両親は事故で亡くなった、とだけ語った。
以来、一護はそれ以上を聞く事はしない。彼もまた、雫に多くは話していないのだから。

「ねえ、一護」

隣を歩いていた雫が立ち止まる。
一護も数歩先で足を止めた。

「明日は学校を休むんでしょ?」

「…あぁ」

毎年、6月の同じ日に、一護は学校を休む。それは彼の母親の命日だから。
雫が知っているのはそれだけだった。

「気を付けてね」

雫はそれ以上何も言わない。
毎年の事だった。

「あぁ…」

短い会話の後に、風が吹き、夏の香りを連れてくる。

「帰るか。家まで送る」

「うん、ありがとう」




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