*virgin killer & if

□-if-
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カタカタカタ…


会社のオフィスに、キーボードを打つ音が響く

オフィスにはあたし1人


明日までに間に合わせないといけない仕事が終わらないのだ


「はぁ…」



《今日は会社に泊まりかもな…》



ため息をついたあたしは、グイッと背伸びをする



そして、もう一度仕事に取りかかろうとした時



ガチャン


オフィスのドアが開いた




「まだ仕事していたのか?」


そこには、上司のエルヴィンさんがいた


「エルヴィンさん、仕事が終わらなくて…」
「そうか、お疲れ様。」
「エルヴィンさんはどうしてここに?」
「私も仕事の続きだよ」


そう言って、エルヴィンさんはデスクに座った




ぐぅぅ…



《し…しまったぁ…》



夜ご飯を食べていない、あたしの腹の虫は今になって鳴き出したのだ



《エルヴィンさんに聞こえちゃう…ッ》


黙ってエルヴィンさんを見つめると、バッチリ目が合ってしまった


《見られてる!》



「クスッ」


そして、柔らかく笑われた



《穴があったら入りたい!》



あたしは恥ずかしさの余り、エルヴィンさんから勢いよく視線を逸らした



《さ、最悪…》



カサッ


すると、あたしの視界にはパンの袋があった



「これでよければ、食べるかい?」
「へ?」


そして、いつの間にか隣のデスクにいたエルヴィンさん



《近いッ!》



「それとも、こっちがいいかな?」



エルヴィンさんは、おにぎりを手に取る



「い、いいんですか?」
「仕事頑張ってるからね」
「…すいません」
「いいえ」



あたしはエルヴィンさんから、あんパンを受け取った



エルヴィンさんもおにぎりを食べたので、あたしもあんパンを食べる



《おいし…》



ずっとご飯食べていないあたしは、あんパンがいつもよりおいしく感じた




エルヴィンさんを見ると、そんなあたしを見て笑っていた



「ごちそうさまです」
「いいえ」
「お金払います、いくらですか?」
「いや、いらないよ」
「でも…」
「仕事を頑張ってる部下への差し入れだから」



エルヴィンさんが、あたしに微笑む



「ありがとうございます」
「ユリア、頑張ってね」
「はい、エルヴィンさんも」
「あぁ」




そして、あたしたちは仕事に取りかかった

















カタカタカタ…カタンッ!


勢いよくキーボードを打ち
あたしは思い切り背伸びをする



「…おわったぁ…ッ」
「お疲れ様」



エルヴィンさんがあたしの頭をポンと撫でる



「…ふぁ〜、エルヴィンさんは終わりましたか?」



《眠たい…》


「まだかかるかな」
「じゃあ、終わったら言って…くださ…」




あたしは、何と言ったか分からないまま、目を閉じた
























チュンチュン…



雀の鳴く音


うっすら目を開けると、エルヴィンさんがいた



「…起きたかな?」
「…エルヴィン…さん…?」



なんで目の前にエルヴィンさんがいるのか分からないあたし


そして、やっと頭が働きだした

ガバッと起き上がったあたし


「あの!!あたしは…?」



なぜか、ソファに寝かされていたあたし


しっかり毛布もかけられていた


「仕事終わった後、眠かったんだろう。よだれが出ていたよ」
「えっ!!!!」


あたしは急いで口周りを拭う



「冗談だよ。だから、ここに寝かせておいたんだ」


エルヴィンさんがソファを指差す



「…エルヴィンさんが、運んでくれたんですか?」
「まぁ、私しかいないからね」
「すいませんでした!」
「ハハハ、構わないよ」




《恥ずかしい…、エルヴィンさんに変なとこばっか見られた…》




あたしは、毛布で顔を少し隠した


エルヴィンさんは、優しく笑っていた



























【エルヴィンside】


《さて…》

私は彼女を見つめる



「お疲れさま〜」
「お疲れさまです」



同僚が帰っていくなか、彼女は1人仕事をやっていた



「ユリア、まだ帰らないの?」
「うん、まだかかるから」




そうユリアが言っていたのを聞いて、私は近くのコンビニに向かった







《…さっぱり分からない》



コンビニについた私は、ユリアへの差し入れに何がいいか分からず、店内をさまよっていた




《パンか?おにぎりか?お菓子か?》




あれこれ悩んでいる内に、時間があっという間に経ってしまっていた




《…ひと通り買っていこう》



そう思い、私は買い物を済ませて、会社へ戻った







オフィスに戻ると、ユリアが1人、黙々と仕事をしていた


話を聞くと、まだまだかかるみたいだ



私も、残業のふりをしてデスクに座る



そして、ユリアを見ていた




集中している彼女が、愛おしくて


思わず、笑みがこぼれる




ぐぅぅ…




すると、彼女のお腹が鳴った



彼女は、顔を赤らめながら、ゆっくりと私を見た



案の定、私と目が合ったユリアは視線を逸らした




行動の1つ1つが可愛いすぎる


私はクスッと笑ってしまった



さらに彼女は顔を赤らめる



《愛おしい…》



私は、そんな彼女の隣に座り、先ほど買った差し入れを渡すと、ユリアはパァァっと笑顔になり、もぐもぐとあんパンを食べた




《悶え死ぬ…》



私は平然を装いながら、おにぎりを食べた



















再び仕事に取りかかったユリア


私は、パソコンの画面を点けて、ユリアを見ていた



仕事が終わったユリアが、余りにも嬉しそうで



“頑張ったな”



という意味で頭を優しく撫でた




そして彼女は、眠ってしまった



よほど疲れていたのだろう



私はユリアを横抱きにして、ソファに寝かせた


そして、私が会社に泊まる時に使っている毛布をユリアにかけた



「…ん…」



ユリアの寝息に、理性が乱れそうになる




私は、ユリアの髪を優しくすいた



そして、手が耳元へ

耳元から頬へ



そして、唇へ




プニっと柔らかい唇




私は、その唇に近づいた




そして、重ねた




「…ぅ…ん…」




ユリアが目を覚まさないのをいいことに




私は唇に触れ続けた




《君が目を覚ましたら、私は優しい上司に戻ろう》




そう、自分に誓って








彼女が目を覚ますと、私は何事もなかったかのように、彼女を起こした




私のことを何も疑わない彼女




いつか、ユリアが私の気持ちを知ったら




君が離れてしまいそうで、怖いのだ




そんな臆病な私は、今日も君を見つめることしか出来ない









END
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