*失ったものはもう二度と…

□story2【過去】
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あれはあたしが20歳の時…


暑い夏の夜


憲兵団に所属していたあたしは
仕事を終え、帰宅途中だった



その日はたまたまその道を通っていた





早く自宅に帰って、この暑苦しい制服を脱ぎたかった



そんなことを考えていると




バキッ




と、殴る音が聞こえた




地下街は物騒なことくらい分かっている


殴り合いなんて、ここじゃ普通のことなのに




あたしは思わず、音のする方へ振り向いた




驚いた



あたしと身長が変わらない上に、小柄な男が




体格のいい男共を、何人も倒しているのだから





バキッ



ガッ




ドスッ




ダンッ




鈍い音がしているのに、彼は鮮やかだった




音がしなければ、まるで舞っているかのように



それくらい、鮮やかで




それくらい、綺麗だった





「ウッ…」





最後の男を倒し、男が気を失うと




「ハッ…」




彼は鼻で笑い




男共の体をあさって、金を見つけたら自分のポケットにねじ込んだ





そこで、あたしは現実に戻った



そうよ、こいつはただのゴロツキ




金を奪うやつ



そして、最低なやつ




あたしは、ジャケットのボタンをゆるめ



彼のところに歩き始めた




ザッ…ザッ…




あと少し…




「おい、憲兵の女」
「…ッ」




しかしそこで彼は振り返り、あたしを見つめた




その鋭い眼で




思わず、あたしは目をそらした




「俺を捕まえるのか?憲兵の女」




そんなあたしに挑発するように、彼はあたしに向かって言う




…な、なんなの



コイツッ




あの距離で、あたしがいたのが分かったわけ…?




「悪いが、俺は捕まる気はない。それに…」




彼が言葉を切ったので、あたしは思わず彼を見つめた




すると彼はニヤリと笑い





「てめぇになんか、俺は捕まえられないからな」




と言ったのだ





「…な、なんですって…?」




てめぇになんか…?




ふざけないでッ…!




あたしはッ




「ラァッ!」




対人格闘術の成績は良かった





彼の左の脇腹に、あたしは蹴りを入れた





はずだった





バシッ




「ほう、いい蹴りだ」





しかし、彼は余裕であたしの蹴りを受け止めた





「なっ…!」
「憲兵に入らなきゃ、その腕も落ちなかっただろうがな…」
「クッ…!」





あんたに…





あんたに何が分かるって言うのよ…!






「ラァッ!」





あたしは彼に、突きや蹴りを繰り出した




しかし彼にダメージを与えるのはおろか、軽く交わされるのだった














「…ハァ…ハァ…ハァ…」




あたしは、体力の限界になり



その場に倒れこんだ





一発も…




当てられなかった





悔しい…





こんなやつに…




「おい、憲兵の女」




あたしの近くにしゃがみこむ彼



あたしは顔を反らし、ジャケットを広げた




「…金なら、ジャケットにある」
「ハッ、えらい素直だな」



ばかにするように笑う彼




「…早くして、それとったら早くいなくなって」
「俺を見逃すのか?憲兵の女」
「見逃さないわ、あなたは絶対にあたしが捕まえる」




しかし、腕を戻さなきゃ…



でも今さら対人格闘術なんて、やってくれる人なんて





「お前は、ここのやつらよりは腕がある」
「…?」




なにが、言いたいの?





「俺の暇潰し相手になれ、金はいらん」
「…ハァ?」






けれども、あたしにとっても都合が良いわけで




あたしは、彼の言葉に賛成した





あたしが捕まえる相手に




格闘術を学ぶのだ






「憲兵の女…」
「セナ」
「…セナ、俺はここにいる。明日も来い」
「あなたに言われなくても、捕まえに来るわ」
「リヴァイだ」
「え」
「俺の名だ」





リヴァイって





あの有名なゴロツキのリヴァイ…?





「リヴァイ…、必ず捕まえるから…」

「ハッ、何年後の話だ?」







これが、リヴァイとあたしの出会いだった

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