私の養父はR・A・B

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 バジリスク、と秘密の部屋の化け物に目星をつけたところで、何かが変わるかと言えばそうでも無い。
 気になる、だけで何かを捜索したとして、何の成果も得られないことなど分かりきっている。そのはずだと言うのに、抱いた疑問の正体さえ分からないまま、彰子は今日も物の怪と一緒になって『必要の部屋』へと来ていた。

「で、違和感ってのはなんなのか、わかったのかよ?」
「………それがさっぱり」

 ぐうの音も出ないとはこのことだろうか。言葉を渋り、眉をしかめながら唸っていた彰子は、とうとう床に突っ伏すように体を折り込む。
 気分転換でもしようか、と大きく伸び上がると物の怪のふわふわとした柔らかな毛並みに手を伸ばし、そっと撫でながら立ち上がった。そのまま出口へと向かい、校内を歩く。

「いいのか?」
「調べ物とかで行き詰まった時には外を歩くようにって、朱雀に教わったの思い出した」

 日本にいるであろう十二神将朱雀――十二神将の一人で、物の怪の本性である騰蛇と同じく火将。それなりに高身長であり、外見年齢は現在の彰子よりも少し上の十七歳ほど。闘将ではないが、通力は六合に次ぐ五番手である。身の丈よりも大きい剣を扱う特徴があり、浄化の炎を操る。
 濃い朱色の髪とくすんだ金の瞳をしているその神将は、彰子にとっての姉のような存在である天一の恋人だ。そんな彼は彰子とよく縁側で読み物をしていたこともあり、何かを調べるだとか学ぶだとか、そういった面で助言をすることが多かったな、と話を聞いていた物の怪は思い出す。
 時間は有限。そんなことは分かっているが、いかんせん何も進まないのではやる意味もない。
 静かな校内を歩きながら、彰子はそっと外に見える景色を眺めた。

「そういえば今日だったか? スネイプとの特別講義は」
「うん」
「授業は出ないくせに、特別講義(あっち)は出るんだな?」
「お忙しいのに、時間割いてもらってるしね」

 彰子の言葉に、物の怪はふぅんと曖昧な声を出すと、しっぽをパタリと振った。

 そんな日のことである。
 第三の、と称していいのかは不明なところではあるが、三度(みたび)犠牲者が出た。その男子生徒はゴーストであるほとんど首なしニックと共に石になっていたのだという。
 彰子はその言葉を聞き、おや、と首を傾げた。
 一度目は水浸しの廊下とノリス夫人(ミセス・ノリス)
 二度目は学校にカメラを持ってきていたコリン・クリービーという生徒で、石になった時に構えていたカメラは壊れている。
 そして今度は、半透明のゴーストと生徒。
 もしかして、と彰子は一つの答えに辿り着く。もしかして、被害者達は直接、化け物――バジリスクの目を見ていないのだろうか。半信半疑だが、彰子は物の怪とスネイプにそのことを話した。

「なるほど。面白い考察だ」
「ありがとうございます。それで、一つお願いがあって」
「どうかしたのかね」
「禁書の棚閲覧許可証にサインを頂きたくて」
「却下だ」
「……そう、ですよね」

 そっと息を吐き出した。閲覧禁止とされているのだ。当然、簡単に閲覧できるとは思っていない。そもそも立ち入りを許されている上級生でさえ教授からサインを貰わなければ入れないのだ。
 一人はマクゴナガル教授。
 一人はフリットウィック教授。
 どちらにも断られ済みだ。

「ロックハート教授はどうしたのかね」

 喜んでサインしてくれるのでは? と尋ねたスネイプに彰子は、ぱちくりと瞬いて。

「その手が」

 あったか、と呟くのだった。
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