私の養父はR・A・B

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 どうやら養父であるレギュラスは、トム・リドルという人物に心当たりはないようだ。
 魔法界の王族を称するブラック家とて、さすがにマグル界の情報は集まらなかったらしい。たとえそれが、ゴーント家という純血に絶対的な信念を持ち、出自に誇りを持つ一族のことであったとしても、さしもの当主であっても分からなかったという。
 そんな旨の手紙が届き、彰子はそっと溜息に似た呼気を吐き出した。ブラック家は少し前まで過度な純血主義を掲げる名家であり、レギュラスもそういう(・・・・)教育を受けている。『半純血』などというデリケートな問題に関する情報が、養父の家に保管されているという期待は半分ほどしかしていなかった。そのためか、落胆らしい落胆は無い。
 しかし、彼の手紙でわかったことがある。現在、ホグワーツ魔法魔術学校で騒がれている秘密の部屋は、過去――しかも比較的近い年代、一度開かれたことがあるらしい。
 それは五十年前のこと。
 一人の女子学生――マグル生まれの魔女が、犠牲になったのだという。

「ちょうど、トム・リドルが在籍していた頃の話だね」
「そうだな」

 なにか、因果めいたものを感じてしまうな。物の怪が小さく呟いたのを聞いた彰子は、慎重に一つ、頷いた。
 秘密の部屋を設けたのは、創設者であるサラザール・スリザリン。
 サラザール・スリザリンの子孫にあたるゴーント家のコルヴィヌス・ゴーントという人物が、ホグワーツ城の配管改築工事に関与したという記録があり、それは現在、女子トイレが設置されている場所にあたる。
 さらにはコルヴィヌス・ゴーントの子孫であり、半純血のトム・リドルがスリザリン寮に在籍していた頃、秘密の部屋が開かれ、一人の女子学生が犠牲になっている。
 ――と、ここまで考えて、何かを忘れているような感覚に襲われた。彰子は、はた、と考え込むようにして伏せていた視線を上げ、周囲を見渡した。
 グリフィンドール寮の談話室。普段と何ら変わらない喧騒が、賑やかしく色づいている。親しくしている友人たちの姿を見かけた彰子は、その中に、ハリーを初めとし、ロンとハーマイオニーの姿がないことに、ふと気がついた。
 そういえば彼らは、薬を作ると言ってなかったか。それはどこで? たしか、誰も近づかない、ちょうどいい場所があるのだと、ハーマイオニーが言っていた気がする。
 それは、どこだったか。
 何故こんなにも『場所』が気になるのか。彰子は特に理由も分からず、少しだけ首を傾げると、何か忘れてる気がするんだよなぁ、と小さく呟いた。

「ところで彰子」
「うん?」
「お前、しばらく前に蛇の怪物について調べるって言ってなかったか?」
「ああ……メドゥーサとかヒュドラーとかね、調べてはみたんだけど」

 ヒュドラーもメドゥーサも神話の世界で退治されてるんだよねぇ、と彰子は呟いた。

「それよりも近いものがあるんだよ」
「近いもの?」
「そう。蛇の怪物で、被害者が死ぬか、あるいは石になるもの」

 それはコカトリスと混同されることが暫しあるようで、身体を半分持ち上げて進むと言われており、移動する音を聞いただけで周囲のヘビが逃げていくという。
 名称はギリシア語で「小さな王」を意味するものが使われており、全ての蛇の上に君臨するヘビの王であるとも言われている。
 とん、と彰子の少しだけ荒れた指先が、ノート替わりの羊皮紙を指さした。

「そのものの名は――バジリスク」

 秘密の部屋の怪物は、恐らくこれだ。彰子は物の怪にだけ聞こえるように、声を落として、そう口にした。
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