私の養父はR・A・B

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 早朝、布団を剥がれた彰子は、朝食もそこそこに、物の怪を肩に乗せながら友人達に腕を引かれ、クディッチ競技場へ来ていた。
 競技場が熱気に包まれている中、連日の調べ物が上手く実を結んでいないせいで寝不足気味の彰子は、ベンチに座った途端、ローブに包まって温かな物の怪を抱え込み、すやすやと寝息を立てていた。

「きゃーっ! ハリー!!」

 キィンと耳に痛い友人の声を聞いた彰子は毛を逆立てる物の怪と共に飛び起きると、空中を飛び交う選手へと視線を向けた。
 なんと言ったか、選手の手に渡らないあのボール。そのボールが変にハリーを追いかけている。

「何があったの?」
「ブラッジャーがハリーを追ってるの!」
「どういうこと?」
「去年と同じよ、誰かがハリーを狙ってるのよ!」

 ハーマイオニーに視線を向ければ、杖を取り出している。ブラッジャーを壊そうというのか、なるほど。なんて考えながら彰子がハリーを見れば、逃げる彼も球体も高速で飛び回り、呪文が外れれば彼に当たってしまうだろう。

「彰子も構えて!」
「私!?」
「当たり前でしょ! ロンじゃ杖が!」

 そりゃそうだ、と物の怪が呟くのを聞きながら、彰子は「呪文苦手なのに」と顔を顰めつつ杖を構える。
 しかし、苦手な上にそもそも的確な呪文が思いつかない。彰子は唸りながら杖先をハリーに向けた。

「ハリー!!」

 ハーマイオニーの声に、人を押し退け最前列へ躍り出たロンに腕を引かれ、彰子もハーマイオニーとロンに並ぶ。

「……グラウンドに行こう」
「何言ってんだよ彰子!」
「そうよ、そんな事したら叱られるわ!」
「このままじゃハリーだけじゃなくて他の人も怪我しちゃうよ!」

 試合を止めないと! と彰子が叫んで身を翻す。階段へ向かおうと足を踏み出した時、ロンが叫んだ。

「マルフォイが落ちた!」

 その声に彰子は観客席の柵にしがみつく。見ればグラウンドにドラコが転がっていた。
 どこかを怪我したらしい。彰子は柵を掴む手に力を込め、膝を曲げる。階段を降りている時間さえ惜しい。トン、と柵の上に飛び乗って、ハーマイオニー達が止めるのも聞かずグラウンドへ身を踊らせた。

「紅蓮お願い!」
「仕方ないな……!」

 熱風にも似た神気が迸り、逞しい褐色の肌色をした腕が彰子を抱え込んだ。トサ、と両足を芝生に下ろされた彰子は、瞬きの間に物の怪へと変化した騰蛇と共に、ドラコに駆け寄った。彼の様子を見た彰子は、ほ、と息をつき、札を一枚取り出す。
 痛み止めだよ、と言いながら、札をドラコの頭に出来た瘤に当てる。駆け寄ってくる教員たちにその場を譲り、そのまま、つい、とハリーを見れば、地面近くを飛行していた彼は、金色のスニッチに手を伸ばしていた。

「ハリー!」

 向こう側から見えるボールの姿に声を上げるが、ブラッジャーはスピードも勢いも弱まることなくハリーの腕に突っ込んでいく。身が竦むような鈍い音を立て、彼の腕が、体が反動に揺すぶられる。
 彰子はちらりと観客席を見上げ、ハーマイオニーとロンの姿がこちらへ向かっているのを目視すると、懐の術札を確認する。
 箒から投げ出されたハリーは仰向けに倒れ込みながら、笑みと共に左手を掲げていた。

「ハリー・ポッターがスニッチを取った!勝ったのはグリフィンドール!」

 スニッチのキャッチに興奮する観客を他所に、嫌な予感がする、と呟いた彰子は、その予感通り、未だハリーを襲うブラッジャーを見た。
 彰子は、真上から降ってくるブラッジャーを避けていたハリーに駆け寄り術札を放った。

「臨む兵、闘う者、皆、陣烈れて前に在り!」

 空気を切るような音の後に、降ってきたブラッジャーが途中で跳ね返る。ブラッジャーが降る度に、空気を切るような、あるいは鏡にヒビが入るような音が響く。

「彰子!」
「ハリー、腕を見せて」

 視界の端にハーマイオニーやロン、友人たちの姿を捉えた彰子は、ブラッジャーは彼女らに任せよう、と襲い来るボールに向けていた視線を外し、ハリーの傍に座り込む。

「フィニート・インカンターテム!」

 ハーマイオニーの声と共に結界を消す。痛みに呻くハリーの腕を持ち上げ、ドラコに付けた痛み止めの札を貼った。

「痛みは? 酷い?」
「うん」
「もっくん、どう思う?」
「骨が折れてるんじゃないか?」
「やっぱり?」

 札の効果を高めよう、と剣印を結んだ彰子の肩を掴んだ手を見あげれば、白い歯を惜しみなく出した笑顔のロックハートが立っている。

「この後は私に任せなさい!」
「げっ」
「いえ、このままマダムのところに行きますから!」

 カエルが潰れたような声は物の怪のものだ。ロックハートの魔法の腕を疑わしげに思っている彰子は必死で首を左右に振るが、

「わざわざマダムの手を煩わせることはありません!」

 彰子の腕から無理にハリーの腕を取ったロックハートと、顔を痛みに歪めるハリーを見て、ハーマイオニーが顔を青くする。

「ブラキアム・エンメンドー!」

 その瞬間、彰子はハリーの腕から視線を逸らし、物の怪をはじめ、様子を見ていた皆が呆然と立ち尽くした。なぜなら、ハリーの腕はゴム製のおもちゃのように動いていたからだ。

「治っただと? 骨が無くなったんだろうが!」

 誰かの言葉に大きく頷く。ハリーを見れば、不安そうな顔で彰子を見ていた。

「……マダムのところに行こう」

 ロックハートを押し退け、ハリーを支えながら立ち上がらせる。ロンの手を借り、人混みを抜けた彰子は、医務室へと急いだ。
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