薔薇

□【ゆゆみょん】冥土服
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フリル、リボン、ワンポイントに桜柄の刺繍。
生地の色はマカロンのような淡い緑。
そして純白のエプロン。

そんな女子力の高いメイド服を、白玉楼の庭師は主に突きつけられていた。

「何ですか、コレ。」

メイド服だよ、という主の天然な答えに妖夢は思わず苦虫を噛んだような顔になる。

「綺麗ですね、新しく給仕係でも雇うんですか。」

妖夢はそう言ったもののその可能性は無いと分かっていた。
元々、白玉楼には給仕をする幽霊がいる。
身の回りの世話には困ることはない。

それにそのメイド服の色が自分がいつも来ている服の色と同じなのも気になった。


「違うよ、妖夢に着てもらおうと思ったんだ。」

白玉楼の主、西行寺幽々子はメイド服のエプロンを持ち上げた。

「紫に、給仕をする人が着る服だと教えて貰ったんだよ。」

「因みに、女性用の服だとも言われませんでしたか。」

妖夢はスカートを持ち上げた。

「でも、妖夢は小さいから着れるだろ?」

妖夢はムッとした。
確かに背が低いことは認めるが、女性並とは心外だ。

「着れる、着れないの問題じゃないです。男はこんな物、着ないんです。」

妖夢がそう言うと幽々子はメイド服に目を落とした。

「でも、着れるんだろ?」

「まあ、着れるとは思いますが、それ以前に...」

「じゃあ、着てみてよ。」

幽々子は笑顔で微笑む。

「いや、ですから...」

「どうせ、私以外には見ていないさ。」

「いや、幽霊達もいますし...」

「死人に口無し、だろう。」

妖夢はメイド服を見た。

「いや、そもそも男には似合いませんし」

「妖夢は小さいし、可愛いから大丈夫だよ。」

「そ、それに俺の男としてのプライドもありますから。」

「妖夢 。」

幽々子は妖夢の目を見てニッコリと微笑んだ。

「...わ、分かりました。」

妖夢は項垂れた。
主には逆らえない。



*******************



「うん、似合う似合う。」

妖夢は主人の言われるまま結局メイド服を着た。

スカートの中のフリルが足に当たってくすぐったいし、股の開放感が耐え難い。
エプロンの窮屈さと、リボンの鬱陶しさがそれに加わり、内心穏やかでは無い。

「じゃあ、もう着替えてもいいですか。」

エプロンを外そうとすると、幽々子がその手を止めた。

「駄目、その服は給仕をするための服なんだよ。」

「こんな哀れな姿で給仕をしろと仰るのですか!」

妖夢は半泣きで主に抗議する。

「うん、似合うから大丈夫だよ。」

主には妖夢の言いたい事は伝わらなかったようだ。

それに、女の格好をさせられ似合うと言われてしまった事もかなりのショックだ。



「あ、でもその前に...ほら、おいで。」

幽々子は妖夢に手招きした。
ここで逆らっても面倒なので妖夢は素直に幽々子に近づく。

「はい、頭に付けて。」

そう言われ、カチューシャ状の物を手渡される。
妖夢はああ、あのメイドが頭に着けているやつか。と身構えた。
メイドは紅魔館のパーティーで見たことがあるから、何となく服装は知っていた。

妖夢は手渡された物を見る。
あの、メイド妖精が着けていた物と同じくカチューシャにフリルが付いた物だったが、一つだけ違う部分がある。

「幽々子様。」

「ん、どうしたんだい。」

「何で猫の耳が付いているんでしょうか」

妖夢はカチューシャを幽々子に見せる。
そのフリル付きのカチューシャの両端に黒い猫の耳が付いている。

「紫にメイド服にはこれだと教わったんだけけど。」

「幽々子様、日頃紫様に騙せれてませんか。」

幽々子は暫く妖夢の言葉の意味を考えていたが、はっと思いついたように手を叩いた。

「ああ、大丈夫だよ、偽物の猫の耳だから。」

「いや、本物の耳だとは思ってませんよ、本物だったら絶叫物ですよ。」

「大丈夫、橙の耳は健在だよ。」

「いや、橙の耳を引き抜いて付けたとは思ってません。心配してるのはこんな馬鹿げた物を俺が頭に付けるのかどうかです。」

「大丈夫、似合うから。」

「似合うとかの問題じゃないです!」

「妖夢。」

幽々子は笑顔で妖夢を見つめた。


「...分かりました。」

そうだ、主には逆らえない。



*******************



ポンポン、と幽々子は正座した自分の太腿を叩いた。

「何ですか。」

猫耳メイドの庭師は尋ねた。
メイド服の羞恥心と猫耳の羞恥心とで、その顔はうっすら涙すら浮かんでいる。

「ほら、おいでおいで。」

幽々子は再び自身の太腿を叩いた。
まるで猫に“お膝においで“と言わんばかりに。

「いや、俺は今メイドなんですか、猫なんですか?」

「妖夢がいつも庭師兼剣の指南役であるように、今はメイド兼猫なんだよ。」

何ですかそれ、妖夢は言いながら素直に幽々子に近づく。
どうせ、逆らえはしない。

「膝に乗ればいいんですか。」

「うん、膝の上に丸くなってもいいよ。」

「それは無理ですが、重いですよ、大丈夫ですか。」

「大丈夫、妖夢は小さいから。」

「...せめて軽いって言ってください。」

妖夢はムッとしながら、幽々子の膝に腰掛けようとした。


「ああ、違う違う。」

幽々子はキョトンとしている妖夢の胴に手をかけた。

「私の方を向いて座るんだよ。」

笑顔で言う幽々子。
妖夢は流石に慌てた。

「いや、それ目茶苦茶恥ずかしい体制になりますよね。」

「でも、そうじゃないと妖夢の顔が見れないだろう?」

「いや、恥ずかしいですって!」

現状でも恥ずかしいうえにさらにこれ以上の事は流石に主でも出来ない。


「でも、そうじゃないと恥ずかしがってる妖夢の顔が見れないだろ?」

幽々子はニッコリと微笑んだ。
妖夢は泣きそうになった。



*******************



「もう、いいですか?」

「駄目。」

幽々子はそう言いながら妖夢の髪に触れた。
目の前に幽々子の顔が来る。
妖夢は思わず目を逸らした。

この体制は体が密着するどころか
妖夢はスカートのため、素足の太腿の内側が幽々子に直に触れる。

「それにしてもスカートが意外とふわふわしてるんだね。」

幽々子と妖夢の間には行き場のないスカートが挟まっている。
それにスカートの中のフリルがスカートにボリュームをつけている。

「いっそ、脱いじゃおっか。」

幽々子が笑顔で言う。
妖夢は泣きそうになるのを唇をかんで堪えた。
こんな格好でしかもこんな体制で、これでスカートが無かったらそうとうな変態だ。

「冗談、冗談。」

幽々子は笑いながら妖夢の頬を軽くつねった。
冗談と分かって安心するとまた涙が溢れそうになる。

「ほら、泣かないで。」

幽々子は優しく頭を撫でた。

「...泣きたくもなりますよ、だって、俺、女みたいじゃないですか。」

妖夢は自分の哀れな姿に悲しくなる。

「俺、もう婿に行けませんよ。」

メイド服の庭師は泣き言を言った。
男なのにメイド服で猫耳で、しかも男の主と向かい合って密着している。
妖夢のプライドはズタズタで、頭の中も滅茶苦茶になる。

「大丈夫、私が責任をとって妖夢を嫁にとるから。」

幽々子は妖夢の頬に口付けをした。
妖夢は羞恥と訳のわからない安堵と混乱でどうする事も出来ず、ただ、幽々子にしがみついた。



*******************


「ふぁ〜」

幽々子は欠伸をした。
昨日はあまり眠れなかった。
昨日、紫から聞いたメイドの話で妖夢をからかったものの
最終的に調子に乗りすぎて、妖夢は パニックで泣いてしまうし、大変だった。

幽々子は隣で寝ている妖夢を見た。
妖夢はメイド服のままだが、猫耳は外れて、横に転がっていた。

「ほら、妖夢。」

幽々子は妖夢を揺り起こした。
妖夢は目を覚まして起き上がり、目をこすった。

「あれ、幽々子様? おはようございます。」

寝惚けていてなぜ、幽々子と寝ているのか分からないまま妖夢は暫くボーッとしていたが、自分の服を見てはっと顔が青ざめた。

「自分、あのまま寝たんですか!?」

「そうだよ、妖夢が泣いちゃって大変だった。」

幽々子が笑いながら言うと、妖夢は首をかしげた。

「あれ、俺、泣いた...んですか?」

どうやら、パニックになった後のことは覚えていないらしい。


「ふーん、まあ、それより顔を洗っておいで。」

幽々子がそう言うと納得をしていない顔で妖夢は洗面所へと向かった。



「きっと、あの事も覚えてないかな。」

幽々子は洗面所に向かった妖夢のその後を考えて笑いそうになる。


まず、鏡を見て半裸の自分に驚くだろう。
そして、首元のキスマークに驚くだろう。
そして、ようやく体の痛みに気付く。

そんな妖夢を想像して思わず幽々子は笑ってしまった。

洗面所から言葉にならない叫び声が聞こえたのはそれから間もない頃だった。

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