百合

□【めーさく】カカオ100%
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「2月、14日・・・。」

紅魔館の門番、紅美鈴は門の前で頭を抱えて悩んでいた。
近くの湖では妖精たちが雪遊びを楽しんでいる。

“セント・バレンタインズデー”

美鈴は昨日の12日にレミリアお嬢様が言っていた言葉を思い出した。


『咲夜、もうすぐバレンタインよ。もちろん私にチョコを渡す準備は出来た?』
『ええ、もちろんお作りいたしますわ。』


咲夜は笑いながら、そう返事をしていた。
毎年。そう、毎年咲夜は紅魔館の住人全員にチョコを作ってくれる。

美鈴は再び頭を抱えた。

(全員に平等に渡すんだよな・・・。)

そう、お嬢様にも、妹様にも、メイド妖精たちにも。
貰えないよりはましなのだが、なんかこう、好きな人にチョコを渡す日なのだから・・・


「出来れば、私だけにくれたりしないかなぁ」

「何を?」

「だから、チョコを・・・・・・!?」

振り向くと、咲夜が不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。

「さ、さく、や、さん?」

「真面目に警備してると思ったら、考え事?」

「・・・咲夜さん、時を止めて急に現れないでください。」

「はいはい。」

そう言うと、咲夜は足元に置いてあった洗濯物が入った籠を持ち上げた。
洗濯物を取り込む途中だったらしい。

「じゃあ、私はまだ仕事があるから。」


咲夜が背を向ける。
美鈴は急いで腕を掴む。

「ま、待ってください!」

「?」

「私の、独り言、聞いてましたよね?」

「チョコがどうたらこうたらってやつ?」

「そうです!」

美鈴は咲夜に顔を近づけた。
大きく息を吸う。



「だから、私に本命チョコをください!」

「嫌よ。」

「即答!!」

美鈴はうなだれて、手を離した。
咲夜は籠を持ち直した。

「じゃあ、私は忙しいからもう行くわよ。お嬢様たちのチョコも作らなきゃいけないし。」

咲夜は表情一つ変えずに、立ち去った。




*******************


「・・・。」

美鈴は上を向いた。空は澄んだ色をしていた。
下を向いちゃいけない。涙が零れてしまう。

(そうだよね、咲夜さんが本命チョコをくれるわけないよね。)

湖では妖精たちのキャッキャウフフな楽しそうな声が聞こえる。
楽しそうだ。是非とも妹様の能力で爆発して頂きたい。

「美鈴。」

「!?」

涙目の美鈴が驚いて振り向くと、再び咲夜さんがいた。

「さ、咲夜さん・・・脅かさないでください」

「何で泣いてるのよ。」

「いまさっき、貴女にフラレたからです。」

「あ、そう。」

そう言うと、咲夜は持っていた包を美鈴に渡した。


「これは?」

「チョコよ。」

「え!ほ、ホントですか!?」

美鈴は嬉しそうに包みを開けた。
中にはごげ茶色のパッケージ。
“明治ミルクチョコレ・・・え?

「咲夜さん。」

「何?」

「めっさ、市販チョコじゃないですか。」

「そうね。」

「しかも、明治だし。」

「ミルクチョコね。」

咲夜もパッケージを見る。

「手作り・・・じゃないんですか。」

「あら、いつ私が貴女に手作りチョコを渡すといったかしら。」

咲夜は表情一つ変えない。

「咲夜さん、ひどいですよぉ、私の気持を分かっておきながら・・・」

美鈴の目からは涙が零れだしている。
フラれて、市販チョコ・・・。ダブルパンチをくらった気分だ。

「あら、ひどいのは貴女でしょ?」

「え?」

美鈴は訳が分からないという風に首をかしげた。

「私、何かしました?」

咲夜の体がピクリと動く。

「ええ、してるわ。しかも毎年。」

「!?」

咲夜は美鈴をじっと見つめている。
表情は変わっていないが、どこか怒っているようだ。

「2月14日。」

急に咲夜が口を開いた。

「え?」

「2月14日は何の日?」

咲夜の口調が少し強くなる。

「バ、バレンタインです。」

「バレンタインは何をする日?」

「え?えっと・・」

咲夜に睨まれて美鈴はしどろもどろになる。

「何をする日?」

「好きな人にチョコを渡す日・・・?」

美鈴はあまりに詰め寄られるので、
寺子屋の授業で問題の答えに自信がない子供のような言い方になってしまう。

「ええ、昔、貴女がそう教えてくれたわよね。」

「そんなこともありましたね・・・」

咲夜は眉間に皺をよせた。
まるで、『こんな問題も分からないの?』とでも言いたげな先生のようだ。

「だから、私は毎年、チョコを作っているのよね?」

「そ、そうですね。」

さっきまでは何が言いたいのかが分からなかったが、
何となく分かったような気がした。



「じゃあ、何故、貴女は・・・!!」

咲夜は涙目になっている。

「・・・ご、ごめんなさい。」

「どうせ、貴女は私の事が好きなんかじゃないんでしょ・・・?」

恨めしそうに咲夜は涙目で美鈴を睨む。

「そんな事ないです!!」

美鈴は咲夜の肩を掴む。

「嘘。」

咲夜はそっぽを向いた。

「嘘じゃないです。じゃあ、この市販チョコは・・・」

「貴女が私にチョコを作れるように買ってあげました。でも、全然察しないし。もういいわよ。勝手にしたら?」

咲夜は口を尖らせた。

「そんなこと言わないで下さいよ。」

美鈴は苦笑した。

「もういい。」

咲夜はそっぽを向いて館の方へ歩いた。

「どこに行くんですか?」

「台所。」

(そういえば、チョコを作るとか言ってたな。)

「何してるの?」

「え?何って・・・」

美鈴は突っ立ている。

「ほら、行くわよ。私宛のチョコ、作るんでしょ?」

「あ、」

咲夜は美鈴を睨んだ。

「早くしないと、チョコの作り方教えないわよ。」

「ま、待ってください!今すぐ行きます!!」

美鈴は急いで咲夜を追いかける。


湖では妖精たちが楽しそうにはしゃいでいた。

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