百合

□【フラレミ】虚言癖な雨音
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「やんなっちゃう。」

悪魔の妹、フランドール・スカーレットは外を見た。

「あら、それは私に言ってるのかしら、フラン。」

永遠に幼い紅い月、レミリア・スカーレットは窓を眺める妹を睨み付けた。

フランドールは窓ガラスに手を当てた。
窓に外には雨が降っていて、突き刺す様な雨の振動がガラス越しに手に伝わった。

「だって、この前も私が出掛けようとしたら雨が降ってきたんだもの。」

フランドールは横目でレミリアを見た。
レミリアは目を合わせぬように持っていた紅茶に目を落とした。
咲夜が持ってきた謎の植物の紅茶。
何故か薄い紫色をしている。
(紫陽花……?)
レミリアはこの場には居ない咲夜を睨む。
(確かに、季節感のある紅茶がいいとは言ったけど…)

「お姉様、聞いてるの?」

顔を上げるとフランドールが目の前にいた。
眉間に皺を寄せて、レミリアを睨んだ。
目が二つならんでこちらを睨んでいる。
赤い…いや、紅い目が。


「あんたって、紅茶みたいな目の色してるのね。」

さっきまで紅茶の事を考えていたせいか
突拍子も無いことを口走る。

フランドールはきょとんとした顔をした。

「あら、お姉様も同じ色の目をしてますわよ。」

「あぁ、…そうだったわね。」

レミリアは変な事を話した事の気まずさを感じて、急いで紅茶を啜った。
味は薄く、少し感じる味は苦味が強い。
お世辞でも美味いとは言えない。

「あ、でも」

フランドールは言いかけて口を閉ざした。

「でも、何?」

レミリアは顔をあげ、言葉の先を促した。

「私が思うに、お姉様の目の色は…」

フランドールはレミリアに顔を近づけ
目を覗き込んだ。
紅い目が再びこちらを見つめる。




「薔薇の色ですわ。」

突然、上から声が聞こえ、二人は上を見上げた。
白いエプロンを着けた、銀髪のメイドが微笑んでいた。

「あら、咲夜。」

レミリアはメイドに声をかけた。
メイドは主のティーカップに手を添えた。

「もうそろそろ、紅茶のおかわりが必要かと思ったのですが。」

レミリアは飲みかけのティーカップを見て嫌な顔をした。

「もう、結構よ。」

先程の紅茶の味を思い出すと、もう一杯飲む気にはならない。

「あら、そうですか。せっかく沢山紫陽花の茶葉を作ったので消費してほしかったのですが。」

咲夜は残念そうにティーカップを片付けた。

「お姉様の我儘で紅茶を作らせたのに、ねぇ。」

フランドールは咲夜の持っていたティーポットの蓋を持ち上げ中身を覗きながら呟いた。

「あら、じゃあフランが飲めば。ちょうど沢山残ってるようだし。」

レミリアは冷たく言った。
咲夜が嬉しそうにフランドールを見る。

「お姉様の尻拭いはお断りしますわ。」

咲夜は悲しそうな顔をした。
きっと、咲夜が犬ならば耳がペタンと折れて、シュンとしているのだろう。
何しろ、紅茶を主が飲まないのであれば
大量の茶葉を消費しなければならないのは咲夜なのだから。




「では、失礼いたします。」

咲夜は残念そうに出ていった。

「飲めばいいのに、あぁ、可哀想な咲夜。」

フランドールは哀愁漂う咲夜の背中を見ながら言った。
どこか、その台詞は心が込もってはいないように聞こえた。

「だから、フランが飲めばいいでしょ。まぁ、飲めるのならば。」

レミリアはまだ少し口に残る紅茶の味に思わず顔をしかめた。
フランドールはレミリアが座っている椅子の肘掛け腰を掛けた。

「あら、飲めないなんて言ってないわ。」

「あんたは飲んでないからそう言えるのよ。」

「飲めるわ。」

言い換えそうと口を開いたレミリアの唇をフランドールは人差し指で触れた。

「お姉様が飲ませてくれるのならば。」

フランドールは笑みを浮かべた。
レミリアは眉間に皺を寄せて嫌な顔をした。

「私が飲ませるときはティーカップに顔を押し込めて飲ませるから。」

「あら、強引ですこと。」

「そう?」

「でも、私が言いたかったのはお姉様の唇で飲ませて頂きたかったのだけれど。」

「………」


どうして、この妹はこんな事を言うのかレミリアには分からなかった。

(狂言……?)

たまに、心を読める能力が欲しくなる。
この妹の心の奥をを見てみたい。
…情緒不安定な心を読んでも意味は無いのかもしれないが。

「虚言癖の少年の話って知ってるか。」

「狼少年でしょ。誰にも信じてもらえなくなる話。」

「信頼は生きていく内で大切な事だ。」

「じゃあ、私は大丈夫ね。」

「エイプリルフールは終わったけど。」

「ええ、とっくの昔に終わったわ。」

微笑むフランドール。
レミリアの頬に汗が流れ落ちた。
もし、フランドールが正直者だった場合、自分にとっても利益などない。
むしろ、害でしかない。

「近親相姦は良くない。」

「禁断の愛って素敵じゃない。」

「そもそも、私はあんたが嫌い。」

「ツンデレとして受け止めますわ。」

「受け止めるな!」

フランドールは会話が成り立たず、ブスッとしているレミリアを見て笑った。
レミリアはますます膨れっ面になる。

「あら、雨が止んだのかしら。」

フランドールが窓の外を見る。
さっきまで聞こえていた雨音が止んでいた。

「話を反らすな。」

「虹は出るかしら。」

「フラン。」

「でたら、一緒に見ましょうよ。」

「私は真剣に話してるんだ!」

レミリアは威嚇するように低い声で唸るように言った。

フランドールは目線を窓に向けたまま、言った。


「私も真剣に話しるんだけど。」

急にフランドールの声のトーンが低くなったので、レミリアはビクリと肩を震わせた。
目は見えないが、雰囲気が冗談の雰囲気ではない。

フランドールは静かに振り返る。
その表情は怒りでもなく、笑顔でもなかった。

「何で、分かんないかなぁ。」

フランドールは頬を掻いた。

「分かりたくもない。」

レミリアは噛みつくように言った。



「まぁ、いいや。」

フランドールは肘掛けから飛び降りた。
レミリアは内心安堵した。

「そういえばさあ、」

フランドールは首だけ振り返るとレミリアを見つめた。

「お姉様の目の色、咲夜は薔薇の色だって言ったけど私はそうは思わないわ。」

「じゃあ、どんな色だって言うんだい。」

フランドールはにこりと微笑んだ。




「血の色ですわ。」

レミリアは何も言わずにフランドールを見る。
静かな部屋に硝子越しの雨の音だけが部屋に響いた。

フランドールは静かに笑うと背を向け、歪な形の羽を揺らしながら部屋を出た。


静かな部屋には雨音だけが響いている。

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