百合

□【めーさく】風の強い真冬に
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*紅魔館[ロビー]*********

「ほら、ここの窓、閉まってないじゃないの!」

咲夜は大きな声で廊下にいるメイド妖精へと呼びかけた。

「すみません・・・」

メイド妖精は申し訳なさそうに急いで高い位置にある窓を閉めた。
外は強い風が吹いている。

「まったく、今日は風が強いからちゃんと窓を閉めないと大変なことになるんだから。今度から気をつけなさい。」

「申し訳ありませんでした・・・」

いつも窓が開いていないかなどのチェックはしているが
今日はいつもより厳しくチェックする。

昼頃、小悪魔が言っていたことを思い出した。

「パチュリー様によりますと、今夜は吹雪になるそうです。」

確かに、強い風が雪と共に窓を叩きつけている。
窓はガラスなので割れる心配はないが、これだけ風が強いと少し不安になる。

(神社の巫女は大丈夫かしら・・・)

いや、前に地震で神社が崩壊した時に、天人が造り直したから
きっと前よりは丈夫になっているから心配はしなくても大丈夫だろう。

「咲夜さん、玄関の戸締りのチェックをお願いします!」

「はいはい、今行くわ!」

最後のチェックは玄関。

咲夜は確認した後、入口の扉をしっかり閉めた。

「さあ、これで全部確認したわね。」

息を付くのもつかの間。
紅魔城の主、レミリアお嬢様が起きる時間だ。

咲夜は時を止め、主の元へと急いだのであった。


*美鈴の部屋***********


「へ、へ、へっくしゅん!!」

美鈴の大きなくしゃみが部屋中に響いた。
咲夜はさっとティッシュの箱を差し出す。

「す、すみません・・・」

ズズズ・・・

美鈴はティッシュを受け取ると鼻をかんだ。

咲夜は手元の体温計を見た。

『48.5』

かなりの高熱だ。

「大丈夫? かなりきついなら永遠亭の医者の所にでも・・・」

「いえ、これぐらい大丈夫ですよ。」

美鈴は顔で答えたが、その顔は少し苦しそうだ。




事の始まりは昨日の吹雪の夜のことだ

吹雪のことで頭がいっぱいだっただった咲夜は
外で警備をしている門番のことをすっかり忘れてしまい
入口に鍵をかけてしまったのが原因だ。

館の中に入れない美鈴は開いてある窓を探したが
案の定ひとつ残らずしっかりと窓はしまっており、
助けを求めて叫んだ声は吹雪にかき消され

そして今朝、メイド妖精が凍死寸前の美鈴を発見したのであった。




「本当にごめんなさい」

咲夜は責任を感じ、うつむいた。

「気にしないでください、私は妖怪ですよ、体の丈夫さだけがとりえですから。」

美鈴は咲夜に心配をかけさせないように冗談めいて言ったが咲夜には逆効果だった。

「ごめんなさい・・・」

「だ、だから大丈夫ですって!それに咲夜さん、仕事があるんじゃないですか?」

「お嬢様が今日はつきっきりで看病してあげなさいとおっしゃってくださったから大丈夫よ。」

美鈴はいつもは我侭なお嬢様を思い出した。
(いつもはああだけど、ちゃんと私たちを思ってくれてるんだなぁ・・・)

そして、美鈴は昨夜の顔をチラリと見た。
(それに、咲夜さんとふたりっきりになれるチャンスもくれたし・・・)

「美鈴。」

「は、はい!」

自分の妄想がバレてしまったのかとあせる美鈴を咲夜はのぞき見た。

「本当に大丈夫?何か欲しいものはない?」

「大丈夫ですよ。」

(咲夜さんは優しいな・・・それにしても、欲しいものか・・・)

咲夜は美鈴の額に乗せていた濡らしたタオルを取った
だいぶぬるくなっている。

「じゃあ、タオルを濡らしてくるから待ってて。」

咲夜はタオルを持って椅子から立ち上がった。

「あ、咲夜さん。」

美鈴は咲夜の腕を掴んだ。
真剣な顔だ。

「何?」








「チューしてください。」





「チュ、チュー・・・?」

咲夜は固まっている。

「さっき、欲しいものがないかって聞いたじゃなですか。」

「そ、そうだけど」

美鈴は咲夜の頬に触れた

「してください。」

そして美鈴は咲夜に顔を近づけた。
咲夜の顔が赤くなる。



「・・・・・・や、やだ!!」

咲夜は美鈴の顔を押しのけた。


「な、なんで・・・ですか?」

美鈴は悲しそうな顔をした。

「いや、急に言われたし・・・それに・・・」

「それに・・・」

咲夜は顔を真っ赤にしてうつむいた。

「は、恥ずか・・・しい・・・から・・・」



美鈴は長いあいだ咲夜と過ごしてはいたが
いつもクールドライな咲夜のそんな顔を見るのは初めてだった。

「ダメですか?」

「ダメ!」

「どうしてもですか?」

「どうしても!」

美鈴はまるで美味しそうな餌の目の前で『お預け!』と言われたような気分だった

(あんな、可愛い顔を見せておいて・・・あまり卑怯な手は使いたくなかったけど・・・)

「昨日の夜・・・寒かったなぁ」

「え?」

美鈴はめいっぱい悲しそうな顔をした

「咲夜さんに助けてって叫んだのに・・・何回も・・・」

「うっ・・・」

美鈴は上目目線で咲夜を見た。

「咲夜さん・・・」

「わ、わかったわよ!」

咲夜は観念した。
美鈴の目が輝く。

「じゃあ、咲夜さ・・・」


グイッ


美鈴は思いっきり顔を横に向けられた

横目で咲夜を見た瞬間、頬に柔らかい感触がした。

「え・・・」




咲夜は唇を美鈴の頬にギューと押し付けた。

美鈴はキョトンとした顔をしている。
不意打ちに驚いたのだろう。

「咲夜さん・・・?」

「ほら、したわよ!これでいいでしょ!」

咲夜は顔を真っ赤にしている。

「口じゃ、ないんですか?」

「な!」

美鈴は嬉しいような残念なようなよくわからない顔をしている。

「マウス・トゥ・マウス・・・」

「五月蝿い!そんなにして欲しいならはやく元気になりなさい!馬鹿!!」

咲夜は美鈴を罵倒しながらタオルを持って部屋の外へ出た


バン!


乱暴に閉められたドアが大きな音を出した。


(まさか、ほっぺにくるとは・・・)

美鈴は自分の頬に触れた。少し熱くなっている。

「もう、熱が上がったら咲夜さんのせいですからね・・・」





*咲夜の部屋***********


「うう・・・」

美鈴は体温計を見た。

『38.4』

「まったく、次は咲夜なの?」

レミリアは美鈴を睨みつけた。

美鈴の風邪が咲夜に伝染り、今度は咲夜が熱を出したのだ。

「すみませんお嬢様。」

「さっさと、治してよ。じゃないと、咲夜の手料理が食べられないじゃない。」

レミリアは頬を膨らませた。

「さくや〜大丈夫?」

レミリアの妹、フランドールは心配そうに咲夜の頭を撫でた。

「ご心配をかけて申し訳ありません。」

「ほら、レミィもフランも、風邪がうつるといけないから部屋から出ましょ。」


パチュリーが呼びかけたので美鈴を残し、全員外へと出た。


「本当にすみません、伝染しちゃって。」

美鈴は白玉楼の住人が持ってきた花を窓辺に飾った。

「なんで、あなたは元気なのよ・・・」

苦しそうな咲夜は美鈴を睨みつけた。

「よく、言うじゃないですか。『風邪はうつしたら治る』って。」

美鈴はテ−ブルの上のリンゴを手に取った。
これは確か、魔理沙が置いていったものだ。

「それにしても、咲夜さんはすごいなぁ、お見舞いに沢山の人が来てくれるなんて。」

「すごくないわよ。むしろ、そっとして欲しいわ、苦しいんだから。」

「いいじゃないですか、私の時は誰一人、来ませんでしたよ。」

「あなたはいつも、門で寝てるだけだからじゃないの?」

「・・・そうですけど」


美鈴は咲夜の額を触った。


「何?」

「そういえば、何か欲しいものはありますか?」

美鈴は笑顔で咲夜を見つめた。

「特にないわ。」

「無いですか?チューとか?」

「!!」

チューのことを思い出したのか
咲夜の顔が真っ赤になった。

「チューしますよ?」

「いらない!!!」

咲夜は美鈴の手を払い落とした。

「そうですか・・・」

「なんで、残念そうなのよ・・・」

美鈴はリンゴを手に、扉へと向かった。

「じゃあ、リンゴ剥いてきますね。」

ドアノブに手をかけた。

「美鈴・・・」

咲夜が消えそうなほど小さな声で呼んだ。

「どうしました?」

美鈴が振り返る。

「してほしいことがあった・・・」

顔が布団で見えないが手が真っ赤だった。

「何ですか?」

美鈴はベッドに腰掛けた。





「手・・・繋いで・・・」






「プッ」


「なんで笑うのよ!」

咲夜は布団から顔を出して美鈴を睨みつけた。

「いえ、なんか可愛かったんで。」

「馬鹿にしないでよ!」


美鈴は咲夜の手を優しく握った。

「次は何がして欲しいですか?お姫様。」

「もういい。」


咲夜はすねてしまった。

「ほっぺにチューはしなくていいですか?」

「しなくていい!!」


真っ赤になっている咲夜を見て美鈴はとても愛おしくなった。

「じゃあ、お姫様が治るまで、そばにいてあげますね。」

「ありがと・・・」


《終》

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